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カフェインは「こころの病気」の原因になることがある?

[2025.09.01]

私達の生活の中でとても身近な存在である「カフェイン」。
昼食後に眠くなったとき、コーヒーを飲んでカフェインを摂取し、目を醒まして午後もうひと頑張りする光景はよく見かけるものですが、実はカフェインには意外な落とし穴があるのです。

当院にいらっしゃる方にも一定数、「カフェインをやめる」だけで症状が改善する人がいます。
うまく使えばとても有効な「カフェイン」ですが、今回はそのカフェインによって誘発される症状や影響、カフェインが含まれる意外な食べ物について解説したいと思います。

カフェインは「こころの病気」の原因になることがある?

カフェインが「こころの病気」の直接的な原因となることはまれですが、パニック障害の症状を誘発・悪化させたり、誤ったタイミングで摂取すると不眠を引き起こす可能性があります。

カフェインが「こころの病気」そのものの根本的な原因になるというよりは、その症状の引き金(トリガー)になったり、既存の症状を悪化させたりする強い関連性が指摘されています。
精神医学で用いられる国際的な診断基準『DSM-5』(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)には、「カフェイン誘発性不安障害」という診断名が存在します。これは、カフェインの摂取によってパニック発作や著しい不安が引き起こされる状態を指します。カフェインの持つ交感神経を刺激する作用が、動悸、震え、発汗といった不安発作やパニック発作の身体症状を誘発しやすいためです。もともと不安障害やパニック障害の素因がある方や、カフェインへの感受性が高い方では、過剰摂取が症状の顕在化につながることがあります。
また、カフェインの摂取を急に中断した際に生じる「離脱症状」として、強い疲労感や頭痛とともに、抑うつ気分や易刺激性(いらいらしやすさ)が現れることも、精神的な不調の一因となり得ます。

カフェインが身体に及ぼす影響は?

眠気を覚ます覚醒作用や集中力を高める効果のほか、過剰摂取でめまい、動悸、不眠、不安などを引き起こします。

カフェインは、アデノシンという脳内で睡眠を促す物質の働きを妨げる(アデノシン受容体拮抗作用)ことで、中枢神経系を興奮させます。これにより、眠気が覚め、疲労感が軽減し、集中力や運動能力が一時的に向上する効果があります。また、胃酸の分泌を促す作用や、腎臓での水分再吸収を抑えて尿の量を増やす利尿作用も知られています。しかし、カフェインを過剰に摂取すると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠といった急性中毒の症状が現れることがあります。長期的な過剰摂取は、人によっては高血圧リスクの上昇や、妊娠中の場合は胎児の発育阻害につながる可能性も指摘されています。
健康な成人の方でも、カフェインは1日400mg以内にすることがよいとされています。

カフェインによってパニックや不安が悪化することはあるか?

カフェインは交感神経を刺激するため、不安感を強めたりパニック発作を誘発したりする可能性があります。

カフェインは、心身を興奮・緊張させる役割を持つ交感神経系を刺激し、アドレナリンなどのストレスホルモンの分泌を促します。これにより、心拍数の増加、動悸、血圧の上昇、手の震えといった身体反応が引き起こされます。これらの反応はパニック発作の症状と非常によく似ているため、もともと不安障害やパニック障害を持つ人がカフェインを摂取すると、症状が誘発されたり悪化したりすることがあります。特にカフェインに対する感受性が高い人では、少量の摂取でも不安感の増大につながる可能性があります。不安やパニックの症状にお悩みの方は、カフェインの摂取を控えるか、医師に相談することが推奨されます。

カフェインで不眠になってしまうことがある?

カフェインの持つ覚醒作用が脳の睡眠システムを妨害し、寝つきの悪化や睡眠の質の低下を招きます。

カフェインは、脳内で自然な眠りを誘うアデノシンという物質がその受け皿(受容体)に結合するのをブロックします。これにより脳が覚醒状態を維持するため、寝つきが悪くなる(入眠困難)、夜中に目が覚めやすくなる(中途覚醒)、眠りが浅くなるといった不眠の症状を引き起こします。カフェインの効果が体内から半減するまでには健康な成人で2〜8時間程度かかるとされており、個人差が大きいです。そのため、特に就寝時刻に近い午後や夕方以降にカフェインを摂取すると、夜の睡眠に大きく影響する可能性があります。良質な睡眠を確保するためには、少なくとも就寝前の5〜6時間以内のカフェイン摂取は避けることが望ましいです。できれば、午後3時以降は摂取を控えるとよいでしょう。

カフェインが含まれる意外な食品は?

エナジードリンクやコーラ飲料のほか、チョコレート、ココア、一部の風邪薬や鎮痛剤にも含まれています。

コーヒーやお茶以外にも、カフェインは様々な食品や医薬品に含まれています。特に若い世代を中心に人気の「エナジードリンク」や一部の清涼飲料水には、コーヒーと同等かそれ以上のカフェインが含まれていることがあります。また、カカオ豆を原料とするチョコレートやココアにもカフェインは含まれており、特にカカオ含有率の高いダークチョコレートほどその量は多くなります。さらに、市販されている総合感冒薬(かぜ薬)や頭痛薬、眠気防止薬などには、眠気を抑えたり、鎮痛成分の効果を助けたりする目的で無水カフェインが配合されていることが多いため、意図せず過剰摂取してしまう可能性があります。食品表示や医薬品の成分表示をよく確認することが重要です。

まとめ

うまく摂取すればパフォーマンスの向上に有効なカフェインも、タイミングによっては不安や不眠を誘発することがあります。今回の記事がカフェインとの上手な付き合い方を考えるきっかけになれば幸いです。

カフェインの摂取にかかわらず不安や不眠の症状が続く場合は、専門の医師にご相談することをおすすめします。

参考文献

厚生労働省. 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~
Drake, C., Roehrs, T., Shambroom, J., & Roth, T. (2013). Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before going to bed. Journal of Clinical Sleep Medicine, 9(11), 1195–1200.

 

 

記事監修者について

山﨑 龍一

こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医

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