うつ病
うつ病はどんな病気ですか?
うつ病は、気持ちの落ち込みが続き、眠れない、食欲がわかないといった症状が出現するこころの病気です。
日本では、生涯で10%以上の人がうつ病を経験するとされており、ある調査では約300万人程度が現在罹患していると推定されています。
20代後半から50代に比較的多く、女性にやや多い傾向があります。
仕事や家庭、人間関係のストレスなどが発症の引き金となることもあれば、特に原因がはっきりしないこともあります。
症状が進むと日常生活に大きな支障が出るようになってしまいますが、適切な治療を受けることで改善が期待できる病気です。
うつ病でよくみられる症状は?
うつ病の症状は様々ですが、以下のような症状が特徴的です。
こころの症状
- 抑うつ気分(ほぼ毎日、気持ちが沈んでいる)
- 興味や喜びの喪失(以前楽しんでいた活動にも関心がなくなる)
- 自分を責める思考(「自分には価値がない」などといった考え)
- 集中力が低下し、決断が困難になる
- 死んでしまいたい気持ちが強くなる
からだの症状
- 強い疲労感や倦怠感
- 睡眠障害(不眠または過眠)
- 食欲の低下または増加(体重の急激な変化をともなう)
- 頭痛や肩こり、腹痛などの不調が続く
これらの症状が長期間(おおむね2週間以上)続き、生活や仕事に支障をきたしている場合、うつ病の可能性があります。
うつ病の診断で気をつけるべき点は?
気持ちが落ち込む病気はうつ病以外にも多くあるため、診断する際は注意が必要です。
特にからだの病気の可能性にも注意しつつ、慎重に経過を観察する必要があります。
なお、精神科においては、途中で診断が変わることもよくあります。
今までない症状が出現した場合などはすみやかに主治医に相談しましょう。
以下のような疾患は、特に鑑別に注意が必要です。
双極性障害(躁うつ病)
双極性障害は、うつ状態と、気分が高揚して普段とは比べ物にならないほど活動的になる躁(そう)状態を繰り返す疾患で、うつ状態の症状だけではうつ病と区別がつきません。
うつ病として治療を受けている患者さんのうち、約20%程度が後に双極性障害へと診断が変更されるという報告もあり、専門家でも見極めが難しい場合があります。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの低下は、強い倦怠感、気分の落ち込み、集中力の低下など、うつ病と共通する症状を引き起こします。
ホルモンの異常が無いか確認するため、血液検査を行う場合があります。
月経前不快気分障害(PMDD)
PMDDは、月経周期に伴うホルモン変化が原因で、気分の落ち込みや不安感、倦怠感などが生じることがあります。
これらはうつ病に似ていますが、症状が月経周期に関連する点が特徴です。
婦人科の治療で改善しない場合、精神科・心療内科での治療が有効な場合があります。
認知症
初期の認知症では、気分の落ち込みや意欲低下といったうつ病に似た症状を示すことがあります。
反対に、ご高齢の方のうつ病の症状が認知症と誤解されることも少なくありません。
うつ病の治療にはどんな選択肢がありますか?
うつ病の治療は主に以下のような方法があります。
症状や環境によって使い分けられています。
薬物療法
抗うつ薬
脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンのバランスを調整することで、気分の改善を目指します。
代表的な薬剤にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などがあります。
注意点
効果が現れるまで2~4週間かかることが多く、服薬初期に副作用(吐き気、眠気など)が出やすいとされています。
その他、症状に応じて睡眠薬や抗不安薬(安定剤)、抗精神病薬などを使用する場合があります。
精神療法
お話を伺いながら現在の状況を整理するとともに、うつ病のそれぞれの治療段階に応じて専門的な観点からアドバイスを行うなど、回復のお手伝いをします。
認知行動療法(CBT)などの専門的な治療が行われる場合もあります。
環境調整
適切な休養を取り、ストレスの原因を取り除くことが治療の一環となります。
例えば、仕事で長時間労働が続いるような場合、一旦お仕事をお休みして、負荷を軽減することが必要です。
その他の治療
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法など、従来の治療でなかなか改善しなかった方を対象とした新しいうつ病の治療も登場しています。
うつ病の経過は?
うつ病と初めて診断されたとき、少なくとも2~3ヶ月程度は治療が必要になる場合が多いです。
働いている方の多くは休職し、治療に専念することになります。
症状が改善した後も、再発を防ぐために一定期間は治療を続けることが推奨されます。
特に、過去に再発歴がある場合、服薬をより長め(1年以上)にすることが一般的です。
再発を防ぐためには、ストレス管理や適切な睡眠、規則正しい生活習慣を心がけることが重要です。
また、治療を自己判断で中断しないことも大切です。
うつ病でよく用いられるサポート制度にはどんなものがありますか?
うつ病の方が利用できる制度のうち代表的なものは以下の通りです。
休職制度と復職支援
企業によって体制は異なりますが、ほとんどの企業で一定期間の休職制度が設けられています。
休職開始時には医師の診断書を求められるのが一般的です。
近年では復職支援プログラムを実施している企業も増えています。
できるだけ段階的に元の業務量に戻していけることが、再発予防の観点からは望ましいです。
傷病手当金
健康保険に加入している方が、病気やケガで仕事を休み給与が支払われない場合にお金が支給される制度です。
自立支援医療制度
継続して通院が必要な方の医療費負担が減る制度です(3割負担→1割負担)。
その他にも、長期にうつ病で治療を続ける場合は、障害者手帳、障害年金などといった制度が利用できる場合があります。
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