自律神経失調症
自律神経失調症とはどんな状態ですか?
「自律神経失調症」は、めまい、動悸、発汗、倦怠感、頭痛、胃腸の不調など、自律神経に関係するさまざまな身体の不調が続いているにもかかわらず、検査をしても身体の病気(器質的な異常)が見つからない状態を指す言葉です。
日本心身医学会では、「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と定義されています。
ここで大切なのは、自律神経失調症は日本で慣用的に用いられている呼び方であり、DSM-5-TR(米国精神医学会の診断基準)やICD-11(世界保健機関の国際疾病分類)といった国際的な診断基準には、独立した疾患として掲載されていないという点です。
そのため、「自律神経失調症」という言葉は、症状の説明としては分かりやすい一方で、その背景にある原因を明らかにしないまま使われてしまう危険もあります。
当院では、「自律神経失調症」と言われた症状の裏側に、治療可能な別の病気が隠れていないかを丁寧に確認することを重視しています。
自律神経とはどのようなはたらきをしていますか?
自律神経は、意識しなくても心臓や血管、胃腸、汗腺などを自動的に調節している神経です。
大きく次の2つに分けられます。
- 交感神経:活動しているとき、緊張しているときに優位になり、心拍数や血圧を上げる
- 副交感神経:休息しているとき、リラックスしているときに優位になり、消化を促し身体を休ませる
この2つがバランスをとることで、体温、血圧、消化、発汗などが安定して保たれています。
強いストレス、不規則な生活、睡眠不足、ホルモンの変動などが加わると、このバランスが乱れ、さまざまな身体の症状として現れると考えられています。
自律神経失調症でよくみられる症状は?
症状は全身のさまざまな部位に現れ、日によって、あるいは時間帯によって変動しやすいことが特徴です。
循環器・呼吸器の症状
- 動悸、脈が速くなる、胸の圧迫感
- 立ちくらみ、めまい、ふらつき
- 息苦しさ、息が吸いにくい感じ
消化器の症状
- 胃のもたれ、みぞおちの痛み、吐き気
- 下痢と便秘を繰り返す、腹部の張り
- 食欲の低下
全身・その他の症状
- 強い倦怠感、疲れやすさ
- 頭痛、頭重感、肩こり
- のぼせ、ほてり、多汗、手足の冷え
- 手足のしびれ感
- 耳鳴り
こころ・睡眠の症状
- 不安感、緊張感、落ち着かなさ
- イライラしやすい、気分の落ち込み
- 寝つきが悪い、途中で目が覚める
- 集中力の低下
これらの症状が組み合わさって現れ、内科などで検査を受けても「異常なし」と言われることが多いため、ご本人が「気のせいではないか」「怠けているのではないか」と悩まれるケースが少なくありません。
「自律神経失調症」と言われたときに気をつけるべき点は?
先に述べたとおり、自律神経失調症は国際的な診断基準に基づく病名ではありません。
同じような症状を示す疾患は数多くあり、それぞれ治療法が異なります。
以下のような疾患は、とくに鑑別に注意が必要です。
うつ病・双極性障害
うつ病では、気分の落ち込みだけでなく、倦怠感、頭痛、肩こり、胃腸の不調、動悸といった身体症状が前面に出ることがあります。
とくにご高齢の方や、感情を言葉にすることが苦手な方では、身体の訴えばかりが目立ち、「自律神経失調症」として経過をみられることがあります。
うつ病であれば、抗うつ薬や休養、精神療法によって改善が期待できるため、見きわめが重要です。
パニック症・全般不安症
パニック症では、突然の激しい動悸、息苦しさ、発汗、震え、めまいといった発作(パニック発作)が起こり、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖を伴います。
全般不安症では、さまざまなことへの過度な心配とともに、筋緊張、疲労感、集中困難、睡眠障害などが持続します。
いずれも自律神経症状が中心となるため自律神経失調症と混同されやすいのですが、有効性が確立した薬物療法・精神療法があります。
身体症状症(DSM-5-TR)・身体的苦痛症(ICD-11)
DSM-5-TRの「身体症状症」は、苦痛を伴う身体症状があり、その症状に対して過度な思考・感情・行動(強い不安、健康への過剰なとらわれ、繰り返しの受診など)が続く状態を指します。
ICD-11では、これにほぼ対応する診断として「身体的苦痛症(bodily distress disorder)」が設けられています。
いずれも、身体症状の原因となる身体疾患があるかどうかではなく、症状に過度に注意が向けられ、生活に支障が生じているかどうかに重点が置かれている点が特徴です。
日本で「自律神経失調症」と呼ばれてきた状態の一部は、国際的にはこれらの診断で捉えられます。
甲状腺機能の異常
甲状腺ホルモンが多すぎる甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では、動悸、発汗、体重減少、イライラ、手のふるえが生じます。
反対に甲状腺機能低下症では、倦怠感、冷え、むくみ、便秘、気分の落ち込みが生じます。
いずれも自律神経失調症と症状が重なるため、血液検査でホルモンの異常がないかを確認します。
更年期障害
更年期には女性ホルモン(エストロゲン)が大きく変動し、ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸、めまい、不眠、気分の変動などが生じます。
これらは自律神経症状そのものであり、婦人科でのホルモン補充療法や漢方薬が有効な場合があります。
一方で、更年期の不調と思われていたものが、うつ病や不安症であることもあります。
起立性調節障害・体位性頻脈症候群(POTS)
思春期のお子さんに多くみられる起立性調節障害は、立ち上がったときに脳への血流が保てず、立ちくらみ、朝の起床困難、頭痛、倦怠感が生じる疾患です。
日本小児心身医学会によれば中学生の約10%にみられ、不登校の約3~4割に併存するとされています。
新起立試験によって、起立直後性低血圧、体位性頻脈症候群(POTS)、血管迷走神経性失神などのタイプに分類され、それぞれに応じた対応が行われます。
「朝起きられないのは怠けているから」と誤解されやすいため、正しい理解と診断が重要です。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が止まることで睡眠が分断され、日中の強い眠気、倦怠感、起床時の頭痛、集中力低下、気分の落ち込みが生じます。
「いくら寝ても疲れがとれない」という訴えの背景にあることが少なくありません。
当院では睡眠時無呼吸症候群の検査・治療にも対応しています。
その他に注意すべきもの
- 貧血(鉄欠乏性貧血など):倦怠感、動悸、めまい
- 不整脈:動悸、失神、ふらつき
- 低血糖、糖尿病、電解質異常
- カフェイン・アルコール・ニコチンの過剰摂取
- 薬剤の影響(ステロイド、気管支拡張薬、一部の風邪薬など)
- 脳や神経の疾患(頻度は高くありませんが、症状によっては検討します)
自律神経失調症はどのように診断しますか?
当院では、以下のような流れで評価を行います。
- 詳しい問診(症状の始まった時期、変動のしかた、生活状況、ストレス要因、睡眠、飲酒・カフェインの量、服用中のお薬など)
- 身体疾患の除外(血液検査による甲状腺機能・貧血・血糖などの確認、必要に応じた心電図など)
- 精神疾患の評価(うつ病、不安症、身体症状症などに該当しないかの確認)
- 必要に応じた他科との連携(内科、婦人科、耳鼻科など)
「自律神経失調症」という説明で終わらせず、背景にある要因を一つひとつ確認していくことが、回復への近道になります。
なお、精神科の診療では、経過のなかで診断が変わることもよくあります。
これまでにない症状が出てきた場合は、すみやかに主治医にご相談ください。
自律神経失調症の治療にはどんな選択肢がありますか?
背景にある疾患が明らかになった場合は、その治療が最優先となります。
そのうえで、以下のような治療を組み合わせていきます。
生活リズムの立て直し
自律神経のはたらきは、睡眠・覚醒のリズムと密接に関係しています。
起床時刻を一定にする、朝に光を浴びる、日中に適度な運動をする、就寝前のカフェインやアルコール、スマートフォンの使用を控えるといった工夫が基本になります。
とくに、就寝前の飲酒は睡眠の質を下げるため、不調を長引かせる原因になりやすいものです。
環境調整
長時間労働や過重な業務負荷、人間関係の問題などが続いている場合、まず負荷を減らすことが必要です。
必要に応じて、業務内容の調整や休職に関する診断書の作成、産業医・人事担当者との連携についてもご相談に応じます。
精神療法
お話を伺いながら現在の状況を整理し、症状と生活・ストレスとの関係を一緒に確認していきます。
症状への不安が症状をさらに強めるという悪循環が生じている場合には、認知行動療法(CBT)の考え方が役立つことがあります。
また、呼吸法や漸進的筋弛緩法などのリラクセーション法を取り入れる場合もあります。
薬物療法
背景疾患に対する治療薬
うつ病や不安症が背景にある場合には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が用いられます。
効果が現れるまでに2~4週間かかることが多く、服薬初期に吐き気や眠気などの副作用が出やすいとされています。
症状に応じたお薬
強い不安や動悸に対する抗不安薬、不眠に対する睡眠薬などを、必要な期間に限って用いることがあります。
ただし、ベンゾジアゼピン系のお薬は依存性や、睡眠時無呼吸症候群を悪化させうる点に注意が必要であり、漫然と続けないことが重要です。
漢方薬
体質や症状の組み合わせに応じて、漢方薬が用いられることもあります。
西洋薬が使いにくい方や、複数の不定愁訴が続く方の選択肢のひとつとなります。
自律神経失調症の経過は?
経過は、背景にある要因によって大きく異なります。
一時的な過労や睡眠不足が原因であれば、休養と生活リズムの調整で数週間から数ヶ月のうちに改善することが多くみられます。
一方、うつ病や不安症、身体症状症などが背景にある場合は、それぞれに応じた治療期間が必要になります。
症状が変動するため「良くなったり悪くなったり」を繰り返しやすく、途中で治療を自己判断で中断してしまうと、かえって長引くことがあります。
症状に一喜一憂しすぎず、睡眠・活動・ストレスといった土台を整えながら、少しずつ回復の幅を広げていくことが大切です。
受診の目安を教えてください
以下のような場合は、一度ご相談いただくことをおすすめします。
- 内科などで検査を受けたが異常がなく、それでも症状が続いている
- 症状のために仕事や学業、家事に支障が出ている
- 気分の落ち込みや強い不安を伴っている
- 「自律神経失調症」と言われたが、原因や今後の見通しがはっきりしない
- 睡眠の問題(寝つけない、途中で目が覚める、日中の強い眠気)を伴っている
当院では、こころとからだの両面から症状を評価し、必要な検査や他科との連携を行いながら、一人ひとりに合った治療をご提案します。
お仕事の調整や休職、復職に関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
参考文献・情報源
- American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(日本語版:医学書院)
- World Health Organization『ICD-11 Mental, Behavioural and Neurodevelopmental Disorders』
- 日本心身医学会による自律神経失調症の定義
- 日本小児心身医学会「起立性調節障害」(小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット
記事監修者について
こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医
