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注意欠陥多動性障害(ADHD)

注意欠陥多動性障害(ADHD)はどんな病気ですか?

注意欠陥多動性障害(ADHD: Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、注意力の欠如、多動性、衝動性を主な特徴とする神経発達障害です。
子どもだけでなく成人にも見られる疾患で、生涯を通じて症状が続くことがあります。

日本では、子どもの約5%、成人の約2.5%がADHDに該当するとされています。好発年齢は幼少期(特に小学校入学前後)ですが、成人になって初めて診断されるケースも少なくありません。
ADHDは単なる性格や個性ではなく、脳の機能に関連した医学的な問題であり、適切な治療が重要です。

注意欠陥多動性障害(ADHD)でよくみられる症状は?

ADHDの症状は大きく3つの特徴に分けられます。

注意力の欠如(不注意)

  • 細かいところに気を配れず、ケアレスミスが多い。
  • 作業や勉強を最後までやり遂げられない。
  • 指示に従うのが難しく、忘れ物が多い。
  • 気が散りやすく、集中力を持続できない。

多動性

  • 静かに座っていられない、手足をそわそわ動かす。
  • 必要以上に話しすぎてしまうことがある。
  • 会議や授業中に席を立つなど、落ち着きがない。

衝動性

  • 他人の話を遮ってしまう、順番を待つのが苦手、など。
  • 衝動的な行動をしてしまう(買い物、ギャンブルなど)。
  • 感情のコントロールが難しく、怒りっぽくなることがある。

これらの症状が幼少期から持続していて、日常生活に支障をきたしている場合、ADHDの可能性があります。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の薬物療法にはどんな選択肢がありますか?

現在、ADHDの治療には以下の4種類の薬剤が用いられます。
・コンサータ(一般名:メチルフェニデート)
・ストラテラ(一般名:アトモキセチン)
・インチュニブ(一般名:グアンファシン)
・ビバンセ(一般名:リスデキサンフェタミン)
当院ではビバンセ以外の3剤で治療を行っています。
※当院でのコンサータ治療が可能になりました(2025/6/30更新)

コンサータ

コンサータは、脳内のドーパミン濃度を高めることで脳を覚醒させ、ADHDに伴う不注意や思考の混乱を軽減します。
脳の興奮度を上げる作用があるため、不安感を悪化させたり、まれに躁状態を誘発するリスクも報告されています。
そのため、双極性障害や不安障害がある方には使用がすすめられない場合があります。

コンサータは、専門の登録医療機関でのみ処方可能であり、処方ごとにオンラインのシステムで登録手続きが必要なため、やや手間がかかる側面があります。
効果は比較的早く現れるため、平日のみ服薬し、週末は休薬するスタイルも可能です。

ストラテラ(アトモキセチン)

ストラテラ(アトモキセチン)は、脳内のノルアドレナリンという物質を増やすことで、症状を改善します。
抗うつ薬のSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に似た部分があり、過集中に対して視野を広げる効果もあるとされています。
そのため不安症状の軽減や、双極性障害やうつ病を併存する患者さんにもADHD症状への効果を認める研究があるため、併存疾患がある患者さんに対しても使用することができます。
服薬を始めた時期に、吐き気や食欲低下がみられることがあるので少量から始め、ゆっくり増やしていきます。効果が表れるまでに1-3カ月間と時間をかけてゆっくり効果が出てくるイメージです。

インチュニブ

インチュニブは、α2Aアドレナリン受容体を刺激する作用によって、ADHDの症状をコントロールします。
特に多動性や衝動性に対して有効であり、前頭葉の機能改善と情動安定効果が見込まれます。
イライラしやすい、癇癪(かんしゃく)を起こしやすい、衝動的に行動してしまう、ルール遵守が難しいといった症状が強い場合には、優先される薬剤です。
また、対人関係や夫婦関係において、思わず余計な発言をしてしまうといったトラブルが多い場合も、よい適応かもしれません。

服用開始後、比較的早期に効果が現れますが、初期には眠気や血圧低下がみられることがあるため、少量から慎重に増量していきます。
ジェネリック医薬品が存在せず、薬価がやや高めのため、公費助成制度を活用しつつ治療を続ける方が多いです。

注意点

ADHDの治療薬は、症状のコントロールには大きな効果を発揮しますが、根本的に障害そのものを完治させるものではありません。
ADHD治療では、まず「心理社会的治療」と呼ばれる、環境調整や認知行動療法的アプローチが優先され、これらと薬物療法を組み合わせて進めていくことが基本となります。
心理社会的日常生活の支障が十分に改善されない場合に限り、薬物療法が選択肢として検討されます。

薬物療法を長期間続けると、体が薬に慣れて効果が薄れる「耐性」や、薬への依存が現れる可能性もあります。
薬の効果の出方や、服用する回数・タイミング、副作用の現れ方は個人によって異なるため、自分の症状やライフスタイルに最も合った薬を選ぶことが大切です。
治療を始める際は、必ず医師と十分に相談を重ね、自分自身が納得したうえで薬物療法をスタートさせましょう。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の薬以外の治療はありますか?

一般的には薬物療法の前に心理社会的なアプローチを十分行い、薬物療法の必要性を検討することが重要です。

心理社会的アプローチ

時間管理や整理整頓、感情コントロールなどのスキルを学び、生活上の困難を減らすアプローチです。

大人のADHDでは、日常生活で困っていること(仕事や家事の段取り、約束の時間に遅れる、衝動的な言動など)を減らすための具体的なスキルを練習します。
例えば、「時間管理」では、スケジュール帳やスマートフォンのアプリを使って予定を立て、やるべきことをリスト化し、優先順位をつける練習をします。
タイマーを使って作業時間を区切ったり、休憩を計画的に入れたりする工夫も学びます。

「整理整頓」では、物の置き場所を決め、定期的に片付ける習慣を身につけたり、書類や情報を整理する方法を学んだりします。

「衝動性や感情のコントロール」としては、カッとなりそうな時や衝動的に何かをしてしまいそうな時に、一呼吸置いたり、その場を離れたりする対処法(アンガーマネジメントなど)を練習します。

「環境調整」として職場や学校での支援を受け、課題の分割や周囲の環境を整えることで症状を軽減できる場合があります。

このようにADHDの心理社会的アプローチには、様々な技法を組み合わせて、その人の困りごとに合わせてアドバイスしていきます。
専門家と一緒に練習したり、(難しい場合は)自分でワークブックを用いるなどして、実生活で活用できるようにします。

その他

お子様がADHDの場合などに、同じ悩みをもつ保護者が集まって、子どもの行動を理解して、関わり方を知るための「ペアレントトレーニング」などが有効だとされています。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の経過は?

ADHDの症状は、基本的には生まれながらの特性であり、生涯にわたって続くことが多いですが、治療や支援を受けることで、症状をコントロールしながら生活の質を向上させることが可能です。
治療を受けながら、自分自身の特性を理解し、症状への対処スキルを向上させるだけでなく、強みや得意分野を活かすことで、より充実した生活を送ることが可能になります。

 

参考文献

ADHDの診断・治療指針に関する研究会 齊藤 万比古、飯田 順三 (2022). 注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン 第5版 じほう


文責 山﨑龍一(医学博士、日本専門医機構認定精神科専門医、日本精神神経学会精神科専門医制度指導医、精神保健指定医)

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