うつ病
うつ病はどんな病気ですか?
うつ病は、気持ちの落ち込みや意欲の低下が続き、眠れない、食欲がわかないといった症状が出現するこころの病気です。
一時的な気分の落ち込みとは異なり、症状が2週間以上ほぼ毎日続き、仕事や家事、学業といった日常生活に支障が生じている点が特徴です。
国立精神・神経医療研究センターによると、日本では100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験するとされています。
また、令和5年(2023年)の患者調査では、躁うつ病を含む気分[感情]障害で医療機関にかかっている方は約144万人と報告されています。
発症年齢は10代半ばから30代にかけて多いとされますが、日本では中高年での発症も少なくありません。
性別では女性に多く、男性のおよそ1.6倍と報告されています。
仕事や家庭、人間関係のストレスが発症の引き金となることもあれば、特に原因がはっきりしないこともあります。
症状が進むと日常生活に大きな支障が出るようになってしまいますが、適切な治療を受けることで改善が期待できる病気です。
うつ病でよくみられる症状は?
うつ病の症状は様々ですが、以下のような症状が特徴的です。
こころの症状
- 抑うつ気分(ほぼ毎日、気持ちが沈んでいる)
- 興味や喜びの喪失(以前楽しんでいた活動にも関心がなくなる)
- 自分を責める思考(「自分には価値がない」などといった考え)
- 集中力が低下し、決断が困難になる
- 死んでしまいたい気持ちが強くなる
からだの症状
- 強い疲労感や倦怠感
- 睡眠障害(不眠または過眠)
- 食欲の低下または増加(体重の急激な変化をともなう)
- 頭痛や肩こり、腹痛などの不調が続く
- 動作や話し方が遅くなる、あるいは落ち着きなくそわそわする
日常生活に現れる変化
- 仕事の効率が落ち、ミスが増える
- 身だしなみや掃除など、これまでできていたことが億劫になる
- 人との連絡や外出を避けるようになる
- 朝が特につらく、夕方にかけて少し楽になる(日内変動)
これらの症状が長期間(おおむね2週間以上)続き、生活や仕事に支障をきたしている場合、うつ病の可能性があります。
うつ病はどのように診断しますか?
うつ病の診断は、血液検査や画像検査だけで確定できるものではなく、症状の内容・持続期間・生活への影響を丁寧に確認することで行われます。
国際的な診断基準の考え方
国際的な診断基準であるDSM-5-TR(米国精神医学会)では、同じ2週間の間に、次の9つの症状のうち5つ以上がほぼ毎日みられ、そのうち少なくとも1つが「抑うつ気分」または「興味・喜びの喪失」であることが、うつ病エピソードの目安とされています。
- 抑うつ気分
- ほとんどすべての活動における興味・喜びの著しい減退
- 体重や食欲の著しい変化
- 不眠または過眠
- 精神運動の焦燥または制止(他者から見てわかる程度のもの)
- 疲労感、気力の減退
- 無価値感、過剰な罪責感
- 思考力・集中力の低下、決断困難
- 死についての反復的な考え、自殺念慮や自殺企図
なお、DSM-5-TRの日本語版では、うつ病を含むグループの名称が「抑うつ症群」と改められています。
診察で確認すること
- 症状が始まった時期と、その前後の出来事
- 過去に気分が高揚して活動的になりすぎた時期がなかったか(双極性障害の見きわめ)
- 身体疾患や服用中のお薬の影響がないか
- 飲酒量、睡眠の状況、生活リズム
- ご家族の病歴
必要に応じて血液検査を行い、甲状腺機能や貧血などの身体的な要因を確認します。
うつ病の診断で気をつけるべき点は?
気持ちが落ち込む病気はうつ病以外にも多くあるため、診断する際は注意が必要です。
特にからだの病気の可能性にも注意しつつ、慎重に経過を観察する必要があります。
なお、精神科においては、途中で診断が変わることもよくあります。
今までない症状が出現した場合などはすみやかに主治医に相談しましょう。
以下のような疾患は、特に鑑別に注意が必要です。
双極性障害(躁うつ病)
双極性障害は、うつ状態と、気分が高揚して普段とは比べ物にならないほど活動的になる躁(そう)状態を繰り返す疾患で、うつ状態の症状だけではうつ病と区別がつきません。
日本うつ病学会の患者さん向け資料では、はじめにうつ病と診断された方のおよそ5~10人に1人が、最終的に双極症(双極性障害)と判明するとされています。
治療薬の選び方が大きく異なるため、専門家でも見極めが難しい場合がありますが、非常に重要な鑑別です。
適応障害
明確なストレス因があり、そのストレスから離れると症状が改善する場合には、うつ病ではなく適応障害と考えたほうが適切なことがあります。
一方で、適応障害として経過をみているうちに、うつ病の水準にまで症状が進むこともあります。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの低下は、強い倦怠感、気分の落ち込み、集中力の低下など、うつ病と共通する症状を引き起こします。
ホルモンの異常が無いか確認するため、血液検査を行う場合があります。
月経前不快気分障害(PMDD)
PMDDは、月経周期に伴うホルモン変化が原因で、気分の落ち込みや不安感、倦怠感などが生じることがあります。
これらはうつ病に似ていますが、症状が月経周期に関連する点が特徴です。
診断上は、月経が終わった後の1週間に精神症状がみられないことが決め手になるとされています。
婦人科の治療で改善しない場合、精神科・心療内科での治療が有効な場合があります。
認知症
初期の認知症では、気分の落ち込みや意欲低下といったうつ病に似た症状を示すことがあります。
反対に、ご高齢の方のうつ病の症状が認知症と誤解されることも少なくありません。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が止まることで睡眠が分断され、日中の強い眠気や倦怠感、集中力低下、気分の落ち込みが生じます。
うつ病の患者さんに合併しやすいことが知られており、抗うつ薬を続けても改善しない場合には、その可能性を考える必要があります。
当院では睡眠時無呼吸症候群の検査・治療にも対応しています。
お薬の影響によるうつ状態
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の資料では、副腎皮質ステロイド薬、インターフェロン製剤、一部の降圧薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬など)、抗ヒスタミン薬、経口避妊薬などが、うつ状態を引き起こしうる薬剤として挙げられています。
他院で処方されているお薬も、受診の際にお知らせください。
うつ病の治療にはどんな選択肢がありますか?
うつ病の治療は主に以下のような方法があります。
日本うつ病学会の診療ガイドラインでは、重症度に応じて治療方針を使い分けることが示されています。
すべての方に行う基本的な関わり
重症度にかかわらず、支持的な精神療法と心理教育(病気についての説明、経過の見通し、療養の仕方の共有)が治療の土台になります。
「怠けではなく病気である」ことをご本人とご家族が理解することが、回復の第一歩になります。
環境調整・休養
適切な休養を取り、ストレスの原因を取り除くことが治療の一環となります。
例えば、仕事で長時間労働が続いているような場合、一旦お仕事をお休みして、負荷を軽減することが必要です。
休職が必要と判断される場合には、診断書を作成します。
薬物療法
抗うつ薬
脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンのバランスを調整することで、気分の改善を目指します。
代表的な薬剤にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などがあります。
軽症では必要に応じて、中等症以上では第一選択の治療のひとつとして用いられます。
注意点
効果が現れるまで2~4週間かかることが多く、服薬初期に副作用(吐き気、眠気など)が出やすいとされています。
また、自己判断で急に中止すると、めまいやしびれ感、不安の増悪などの中断症状が現れることがあります。
減量・中止は必ず主治医と相談しながら、少しずつ進めることが大切です。
その他の薬剤
症状に応じて睡眠薬や抗不安薬(安定剤)、抗精神病薬などを使用する場合があります。
なお、日本うつ病学会のガイドラインでは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬のみによる治療や、同じ種類の向精神薬を何種類も重ねて使うことは推奨されていません。
抗うつ薬を十分な量・期間用いても効果が不十分な場合には、リチウムや甲状腺ホルモン、気分安定薬、一部の抗精神病薬を上乗せする「増強療法」が検討されます。
精神療法
お話を伺いながら現在の状況を整理するとともに、うつ病のそれぞれの治療段階に応じて専門的な観点からアドバイスを行うなど、回復のお手伝いをします。
認知行動療法(CBT)や対人関係療法は有効性が確立した治療法とされ、特に再発予防の面では、薬物療法と併用することが単独の治療より有効とされています。
その他の治療
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法
磁気によって脳の特定の部位を刺激する治療法です。
日本精神神経学会の適正使用指針では、抗うつ薬による十分な薬物療法によっても効果が得られない、18歳以上の中等症以上のうつ病が対象とされています。
週5回程度、合計15~30回(3~6週間)の通院で行われるのが標準的です。
修正型電気けいれん療法(mECT)
麻酔科管理のもとで行う治療で、中等症・重症のうつ病における第一選択の治療のひとつに位置づけられています。
特に、自殺の危険が切迫している場合、食事がとれず身体が衰弱している場合、昏迷状態にある場合など、迅速な改善が必要な状況で選択されます。
入院設備のある医療機関で行われるため、必要な場合は連携先をご紹介します。
うつ病の経過は?
うつ病の治療は、大きく「急性期(症状を改善させる時期)」「継続期(改善した状態を維持し再燃を防ぐ時期)」「維持期(再発を予防する時期)」に分けられます。
うつ病と初めて診断されたとき、少なくとも2~3ヶ月程度は治療が必要になる場合が多いです。
働いている方の多くは休職し、治療に専念することになります。
症状が改善した後も、再発を防ぐために一定期間は治療を続けることが推奨されます。
各国のガイドラインでは、急性期に効果があった薬剤を、同じ量のまま4~9ヶ月程度は継続することが共通して推奨されており、再発リスクが高い方では2年以上の維持療法が勧められる場合もあります。
再発の頻度については、1回目のうつ病エピソードを経験した方の約6割が2回目のエピソードを経験し、2回目を経験した方の約7割、3回目を経験した方の約9割が次のエピソードを経験するという自然経過が知られています。
だからこそ、症状が良くなった段階で自己判断で治療を中断しないことが大切です。
再発を防ぐためには、ストレス管理や適切な睡眠、規則正しい生活習慣を心がけることも重要です。
職場復帰はどのように進めますか?
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職を次の5つのステップで進めることが示されています。
- 第1ステップ:病気休業開始および休業中のケア(診断書の提出、傷病手当金などの情報提供)
- 第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断(復職可能の診断書)
- 第3ステップ:職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
- 第4ステップ:最終的な職場復帰の決定(事業者による正式決定)
- 第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ
復職の可否を判断する目安としては、決まった時刻に一人で安全に通勤できること、決まった勤務日・時間に継続して就労できること、業務に必要な作業をこなせること、疲労が翌日までに十分回復すること、睡眠覚醒リズムが整い注意力・集中力が回復していることなどが挙げられています。
できるだけ段階的に元の業務量に戻していけることが、再発予防の観点からは望ましいとされています。
医療機関や地域の施設で行われるリワークプログラム(生活リズムの立て直し、認知行動療法、模擬的な作業などを組み合わせた復職支援プログラム)を利用する方法もあります。
当院では、復職に向けた診断書の作成や、産業医・人事担当者との連携についてもご相談に応じています。
うつ病でよく用いられるサポート制度にはどんなものがありますか?
うつ病の方が利用できる制度のうち代表的なものは以下の通りです。
休職制度と復職支援
企業によって体制は異なりますが、ほとんどの企業で一定期間の休職制度が設けられています。
休職開始時には医師の診断書を求められるのが一般的です。
近年では復職支援プログラムを実施している企業も増えています。
傷病手当金
健康保険に加入している方が、病気やケガで仕事を休み給与が支払われない場合にお金が支給される制度です。
支給額は、支給開始日以前の直近12ヶ月間の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2にあたる金額が日額として支給されます。
支給期間は、支給開始日から通算して1年6ヶ月です(令和4年1月の法改正により、途中で出勤した期間は日数に算入されなくなりました)。
自立支援医療制度
継続して通院が必要な方の医療費負担が減る制度です(3割負担→1割負担)。
さらに、世帯の所得や「重度かつ継続」の該当状況に応じて、1ヶ月あたりの自己負担に上限額が設けられます。
精神障害者保健福祉手帳・障害年金
長期にうつ病で治療を続ける場合は、精神障害者保健福祉手帳や障害年金といった制度が利用できる場合があります。
精神障害者保健福祉手帳は初診から6ヶ月以上経過していることが申請の要件で、税の控除や公共料金の割引などのサービスを受けられます。障害年金はより厳しく、初診から1年半以上の期間や、その他の条件が定められています。
いずれの制度も申請には医師の診断書が必要です。気軽に当院にご相談ください。
ご家族や職場の方へ
うつ病の方に対して、「頑張れ」と励ましたり、「気の持ちようだ」と伝えたりすることは、かえってご本人を追い詰めてしまうことがあります。
まずは十分な休養がとれる環境を整えること、そして治療の継続を見守ることが大切です。
また、「死にたい」という言葉が出た場合は、決して軽く受け止めず、できるだけ早く主治医にご相談ください。
受診の目安を教えてください
- 気分の落ち込みや興味の減退が2週間以上続いている
- 眠れない、食欲がない状態が続いている
- 仕事や家事など、これまでできていたことができなくなっている
- 「消えてしまいたい」という気持ちが出てきている
- ご家族から「様子が違う」と指摘された
ひとつでも当てはまる場合は、早めのご相談をおすすめします。
早期に治療を開始することで、回復までの期間を短くできる可能性があります。
参考文献・情報源
- American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(日本語版:医学書院)
- 日本うつ病学会『日本うつ病学会診療ガイドライン 大うつ病性障害』
- 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症(双極性障害)とつきあうために』
- 日本精神神経学会『反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針』『電気けいれん療法の適応基準』
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」
- 厚生労働省「令和5年患者調査」
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤惹起性うつ病」
- 全国健康保険協会「傷病手当金」
最終確認日:2026年8月26日
記事監修者について
こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医
