9月にこころの不調が増えるのはなぜ?精神科医が解説
9月にこころの不調が増えるというのは本当ですか?
夏が終わりに近づくこの時期、「なんとなく気分が晴れない」「朝起きられない」「仕事や学校に行く気力が出ない」というご相談が増えます。
まず、統計をみてみましょう。
厚生労働省と警察庁がまとめた令和7年(2025年)の自殺の統計では、年間で最も多いのは5月(1,761人)で、春先から初夏にかけて多い傾向があります。
その意味で、「9月が一年で最も危険な月」というわけではありません。
ただし、同じ統計を月ごとに見ていくと、8月の1,522人に対して9月は1,673人と約1割増えており、7月以降の下半期では9月が最も多い月となっています。
また、お子さんのいるご家庭では、夏休みが終わって生活が一変することが、保護者の方ご自身の負担にもつながります。
つまり9月は、「一年で最悪の月」ではないけれども、夏の疲れ、生活リズムの乱れ、環境の切り替わりが重なる、こころの負担が増えやすい節目だと考えるのが正確です。
このコラムでは、その背景と、できる対策を整理してお伝えします。
9月に不調が起こりやすい背景
夏の疲れが、遅れて表に出てくる
近年の日本の夏は、以前とは環境が大きく変わっています。
気象庁の統計では、夜になっても気温が25℃を下回らない「熱帯夜」の日数は、都市化の影響が少ない地点の平均でも100年間で21日増加しているとされ、猛暑日も有意に増えています。
暑さそのものによる体力の消耗に加えて、寝苦しさによる睡眠の質の低下が、7月・8月を通じて少しずつ蓄積していきます。
睡眠の借金は、その日のうちに自覚されるとは限りません。
夏のあいだは緊張感でしのげていたものが、9月に入って一段落したところで、疲労感や気力の低下として現れることがあります。
生活リズムのずれ(社会的時差ぼけ)
お盆休みや夏休みのあいだ、就寝・起床の時刻が普段より後ろにずれた方は多いと思います。
休みのあいだと平日とで睡眠時間帯が大きく異なる状態は「社会的時差ぼけ」と呼ばれ、体内時計と生活時間のずれが、倦怠感や日中の眠気、気分の落ち込みにつながることが知られています。
数日の海外旅行の時差ぼけと違い、休み明けの生活リズムのずれは、意識して整えなければ自然には戻りにくいことがあります。
日照時間が減り始める
光は、体内時計を調節し、気分の安定に関わるセロトニンの働きにも影響する重要な要素です。
気象庁の平年値では、東京の月間日照時間は8月の174.2時間から9月には126.7時間へと、約3割減少します。
また、昼の長さ(日の出から日の入りまで)は、9月のひと月のあいだに約1時間短くなります。
体感としては「まだ暑い」時期ですが、光の環境はすでに秋に向かって大きく動いています。
日照時間の減少と関連して、秋から冬にかけて気分が落ち込み、春に回復するという季節性のうつ病があります。
国内の調査でも、日照時間が短い地域ほど季節による気分の変動が大きい傾向が報告されています。
発症が目立つのは秋の終わりから冬にかけてですが、その入り口にあたるのが9月という時期です。
生活の「節目」が重なる
9月は、多くの学校で新学期が始まる時期です。
また、4月から翌年3月を事業年度とする企業では、上半期の締めと下半期の始まりが重なり、目標の見直しや異動、業務量の変化が生じやすい時期でもあります。
環境の変化そのものは病気ではありませんが、すでに疲労が蓄積した状態でこうした切り替わりが重なると、負担が一気に大きくなります。
気圧の変化
9月は台風の多い季節でもあります。
気圧の変化が頭痛やめまいを引き起こしうることは、動物実験で内耳の前庭器官を介した機序が示されるなど、一定の裏づけがあります。
ただし、専門誌の系統的レビューでは、気圧変化と頭痛の関連について研究結果は必ずしも一致していないとされており、気圧そのものが直接気分を悪化させるという結論は出ていません。
しかし、経験的には、気圧の変化やそれに伴う天候等が、体調不良と一定の関係があることはよく知られています。
一部の漢方薬が症状の緩和に有効な場合があります。
こんなサインに気をつけてください
ご自身のサイン
- 寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚めてしまう
- 朝、起き上がるのがつらい日が続いている
- 食欲が落ちた、あるいは食べ過ぎてしまう
- これまで楽しめていたことが楽しめない
- 些細なことでイライラする、涙が出る
- 仕事や家事の段取りが組めない、ミスが増えた
- 飲酒量が増えている
- 「休みたい」ではなく「消えてしまいたい」という気持ちが出てきた
職場で気づけるサイン
- 遅刻や欠勤、当日の休みが増えた
- 会議での発言が減った、表情が乏しくなった
- これまでしなかったミスや締切の遅れが目立つ
- 身だしなみが変わった
- 昼休みに一人でいることが増えた
いずれも、2週間以上続いている場合や、日常生活・業務に支障が出ている場合には、様子を見るのではなく相談していただくことをおすすめします。
お子さんの新学期が、保護者の負担になることもあります
意外に見落とされやすいのが、お子さんの生活が変わることで、保護者の方ご自身の負担が増えるという点です。
夏休みのあいだは、家族全員の生活リズムがある程度ゆるんでいます。
それが新学期に入ると、朝の支度、お弁当、送り迎え、宿題や提出物の確認、行事の準備といったことが一斉に戻ってきます。
ご自身の生活リズムがまだ夏のままなのに、朝の起床時刻だけが急に早くなる。この落差が、疲労感や気分の落ち込みとして現れることがあります。
さらに、お子さんが登校をしぶったり、体調を崩したりすると、その日の予定は大きく変わります。
仕事を早退する、休みを取る、職場に連絡を入れる——そうした調整が続くと、ご自身の休息の時間から削られていきます。
「自分が支えなければ」と考えるほど、周囲に相談しにくくなるという面もあります。
この時期に、保護者の方に意識していただきたいのは次の点です。
- 家族全体の生活リズムを、新学期の前から少しずつ戻しておく(できたら1週間程度かけて)
- 新学期の最初の数週間は、ご自身の予定にも余白をつくっておく
- 「親だから頑張らなければ」と抱え込まず、配偶者や家族、職場と負担を分け合う
- ご自身の睡眠時間を、家事や子どもの用事のために削り続けない
- お子さんの状態に不安がある場合は、学校の担任やスクールカウンセラーなど、家庭の外の相談先を早めに確保しておく
お子さんを支えるためにも、まず保護者の方ご自身の状態を保つことが土台になります。
「子どものことで手一杯で、自分のことは後回しにしていた」という方こそ、一度ご相談いただければと思います。
(なお、当院は成人の方を対象としており、18歳未満の方および高校生の方の診療は行っておりません。
お子さんご本人の受診については、学校のスクールカウンセラー、小児科、児童精神科などにご相談ください。)
働く方へ(産業医の視点から)
夏の疲労は、本人にとって自覚しにくいもののひとつです。
「暑いから誰でもしんどい」と考えているうちに、睡眠不足と疲労が積み重なり、9月に入って集中力の低下やミスとして表面化することがあります。
また9月は、下半期の目標設定や人事異動、夏季休暇明けの業務再開などの出来事が重なりやすい時期でもあります。
疲労が残った状態で負荷が上がると、不調が一気に進むことがあります。
この時期に意識していただきたいのは、次の点です。
- 「夏バテ」で片づけず、睡眠と気分の変化を定期的にチェックする
- 下半期の目標は、夏の疲労を織り込んで設定する
- ストレスチェックを受けたら、結果を確認して終わりにせず、高ストレスと判定された場合は面談を活用する
- 部下や同僚の様子が変わったと感じたら、評価の問題として扱う前に、体調の変化の可能性を考える
受診をためらっているうちに症状が進み、結果として長期の休職が必要になるケースも多く見てきました。
早い段階でご相談いただければ、働き方の調整や短期間の休養で立て直せることも少なくありません。
9月を乗り切るためにできること
睡眠を最優先で立て直す
まず取り組んでいただきたいのは、起床時刻を一定に保つことです。
就寝時刻をそろえるより、起床時刻をそろえるほうが体内時計は整いやすくなります。
休日の朝寝坊は、平日との差を1〜2時間以内にとどめることを目安にしてください。
朝の光を取り入れる
起床後、できるだけ早い時間に光を浴びることが、体内時計を整えるうえで効果的です。
曇りの日でも屋外の明るさは室内よりはるかに強いため、通勤・通学の時間に外を歩くだけでも意味があります。
予定を詰め込みすぎない
疲労が残っていると感じたら、意識的に余白をつくってください。
シルバーウィークなどの長期休暇を活用し、体調を整えることも重要です。
アルコールに頼らない
寝酒は寝つきを良くする一方で、睡眠の後半に覚醒を増やし、熟睡感を損ないます。
疲れているときほど、飲酒に頼らない休み方を選んでいただきたいと思います。
「まだ暑いから」で判断しない
体感としては夏の延長でも、光の環境や生活リズムはすでに切り替わり始めています。
不調を季節のせいだけにせず、2週間以上続くようであれば一度ご相談ください。
受診の目安を教えてください
- 気分の落ち込みや意欲の低下が2週間以上続いている
- 眠れない、または朝起きられない状態が続いている
- 仕事や家事、育児に支障が出ている
- お盆休みが明けてから、生活リズムが戻らないまま不調が続いている
- 「消えてしまいたい」という気持ちが出てきている
当院では、こうしたご相談に対して、症状の評価に加えて、睡眠の状態、生活リズム、職場や家庭の状況まで含めて一緒に整理していきます。
必要に応じて、診断書の作成にも対応しています。
なお、9月10日は世界自殺予防デーであり、日本では9月10日から16日が自殺予防週間と定められています。
この時期、国や自治体による相談窓口の体制も強化されます。
つらいときの相談先
当院の診療時間外や、まずは匿名で相談したいという場合には、以下の公的な窓口もご利用ください。
電話での相談
- #いのちSOS:0120-061-338
- よりそいホットライン:0120-279-338
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
- いのちの電話:0120-783-556
受付時間は窓口によって異なりますので、最新の情報は厚生労働省の「まもろうよ こころ」でご確認ください。
参考文献・情報源
- 厚生労働省・警察庁「令和7年中における自殺の状況」
- 気象庁「日本の気候変動」「過去の気象データ(東京の平年値)」
- 国立天文台暦計算室
- 白川修一郎ほか「日本人の季節による気分および行動の変化」精神保健研究 第39号
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」
- 厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」
記事監修者について
こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医
