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うつ病がよくなったあとに抗うつ薬は続ける必要がある?いつまで続けたらよい?

[2025.10.21]

抗うつ薬はなぜ続けなくてはいけないのか?

症状が良くなっても、完全に回復したわけではなく、再発を防ぐために必要です。
うつ病には様々な原因があると考えられていますが、その一つに、喜びや意欲に関連する脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスが崩れることが関与していると考えられています。 抗うつ薬は、このバランスを整えることで効果を発揮します。薬を飲み始めて気分が楽になっても、それはあくまで薬の力で症状の改善が保たれている状態かもしれません。 この段階で自己判断で服薬をやめてしまうと、症状がおさまりきらないうちにぶり返す「再燃(さいねん)」や、一旦改善してから再び悪化する「再発」のリスクが高まります。 症状がなくなった後も、安定した状態を自力で維持できるようになるまで、一定期間薬を飲み続けることが必要です。

抗うつ薬を続けることで期待できる効果は?

うつ病の再発率を低下させます。特にうつ病を繰り返している場合に重要です。
抗うつ薬を飲み続ける「維持療法」の最も大きな目的は、うつ病の再発予防です。うつ病は再発しやすい病気で、一度かかると約60%、二度かかると約70%の方が再発を経験するともいわれています。
  • 初発のうつ病:初めてうつ病と診断された方でも、症状が改善した後、半年から1年程度服薬を続けることで、再発のリスクを有意に下げることができます。
  • 反復性のうつ病:過去に何度も再発を経験している方の場合、さらに長期間の維持療法が推奨されます。維持療法は、もし再発してしまった場合でも症状を軽くする効果が期待できます。
このように、服薬を続けることは、安定した社会生活を送るための「お守り」のような役割を果たします。

抗うつ薬を続けることについての医学的なエビデンスは?

症状改善後に抗うつ薬を続けた群は、偽薬を飲んだ群に比べ再発率が約70%も低かったと報告されています。
抗うつ薬の再発予防効果は、多くの質の高い研究によって証明されています。その中でも代表的なのが、2003年に医学雑誌『The Lancet』に掲載された、複数の研究結果を統合・分析した論文(メタアナリシス)です。この研究では、うつ病の症状が一度改善した患者さんを、その後も抗うつ薬を飲み続けるグループと、有効成分の入っていない偽薬(プラセボ)に切り替えたグループに分けて、その後の経過を比較しました。その結果、1~2年後にうつ病が再発した人の割合は、偽薬グループが41%だったのに対し、抗うつ薬を続けたグループではわずか18%でした。これは、抗うつ薬を続けることで、再発のリスクを約70%も減少させられることを示しており、維持療法の重要性を裏付ける強力なエビデンス(科学的根拠)となっています。
参考文献 Geddes JR, Carney SM, Davies C, et al. Relapse prevention with antidepressant drug treatment in depressive disorders: a systematic review. Lancet. 2003 Feb 22;361(9358):653-61.

抗うつ薬の中止を考えるタイミングは?

症状が安定してから半年~1年後が目安ですが、ストレスの多い時期を避けて慎重に判断します。
抗うつ薬の中止を検討するのは、うつ病の症状が完全になくなり(これを「寛解(かんかい)」と言います)、その安定した状態が少なくとも半年から1年以上続いた後が一般的です。ただし、これはあくまで目安です。薬をやめるタイミングで最も大切なのは、大きなストレスがかかる時期を避けることです。例えば、就職、転職、引っ越し、結婚、異動といった環境の大きな変化は、心身にとって大きな負担となり、再発の引き金になりかねません。心穏やかに過ごせている時期を選んで、主治医と相談しながら、数週間から数ヶ月かけて少しずつ薬の量を減らしていく「漸減法(ぜんげんほう)」で安全に中止を進めていくことが重要です。

抗うつ薬を続けることによるデメリットは?

毎日の服薬の手間や経済的負担があり、まれに長期服用による副作用がみられることもあります。
抗うつ薬を続ける上でのデメリットも存在します。まず、毎日忘れずに薬を飲まなければならない手間や、定期的な通院、薬剤費といった経済的な負担が挙げられます。副作用については、飲み始めに見られる吐き気や眠気などは時間とともに軽快することが多いですが、薬の種類によっては体重増加性機能障害(性欲の低下など)があらわれることがあります。これらは生活の質(QOL)に影響するため、気になる場合は主治医に相談することが大切です。ただし、これらの副作用と、うつ病が再発した場合のつらい症状や社会的機能の低下といったデメリットを天秤にかける必要があります。

抗うつ薬を継続するか中止するかは必ず主治医に相談を

自己判断での中止は再発や離脱症状のリスクを高めるため、必ず専門家である主治医の判断が必要です。
「症状が良くなったから」と自己判断で抗うつ薬を急にやめてしまうと、2つの大きなリスクがあります。一つは、めまい、吐き気、頭痛、しびれ、不安感といった離脱症状(中止後症状)です。これは体が薬のある状態に慣れていたところ、急になくなることで起こる不快な症状です。離脱症状は、段階的に減量することで起こりにくくすることができます。もう一つの避けたいリスクが症状の再燃・再発です。再発を繰り返すたびに、うつ病は治りにくく、重症化しやすくなる傾向があります。主治医は、患者さん一人ひとりの症状の経過、再発歴、生活環境などを総合的に評価し、最も安全で確実な治療計画を立てています。薬を減らしたい、やめたいと感じた時は、必ずその気持ちを主治医に伝え、専門的な判断のもとで一緒に方針を決めていくことが、回復への一番の近道です。
参考文献
  • 厚生労働省. みんなのメンタルヘルス. うつ病.
  • 日本うつ病学会. 日本うつ病学会治療ガイドライン.
 

記事監修者について

山﨑 龍一

こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医

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