復職前、診察に同席したいと職場から言われたら
「復職前の診察に同席したい」と言われることがあります
休職されている方の復職が近づいてくると、時々こうしたご相談を受けます。
「上司が、次回の診察に一緒に来たいと言っています」
「会社の担当者が、先生と直接電話で話したいと言っているのですが」
会社の方としては、復職の可否を慎重に判断したい、本人の状態を正確に把握したいという思いからのご提案であることがほとんどです。
その姿勢自体は、決して否定されるべきものではありません。
ただ、医療機関の側からすると、この申し出への対応は意外と難しいのが実情です。
このコラムでは、なぜ難しいのか、そして代わりにどのような方法をとるのが有効なのかを整理してお伝えします。
なぜ診察への同席が難しいのでしょうか
診察では、復職の判断に必要のない情報も扱います
診察の場では、その日の症状だけでなく、睡眠や食欲、家庭の状況、他に治療中の身体の病気、服用しているお薬、過去の経過など、さまざまなことを伺います。
これらは治療のために必要な情報ですが、復職の可否を判断するうえで必要とは限りません。
診察に同席するということは、その場で話題になったことをすべて聞くということです。
そして診察は、あらかじめ話す内容が決まっているものではありません。何が話題になるかを事前に予測することはできず、一度聞かれてしまった情報を、後から取り消すことはできません。
病歴や診療の過程で知り得た情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたります。
本人以外への提供には原則として本人の同意が必要とされ、特に慎重な取り扱いが求められる種類の情報です。
「本人が同意しているから大丈夫」とは言い切れません
「本人も同席に同意しています」と伝えられることがあります。
しかし、上司から「一緒に行きたい」と言われて、それを断れる従業員の方はどれだけいらっしゃるでしょうか。
復職の可否という、ご自身の生活に直結する判断を控えた場面では、なおさらです。
形式的には同意があっても、その同意が本当に自由な意思によるものかどうかは、慎重に考える必要があります。
医療機関としては、この点を軽く扱うわけにはいきません。
診察の場そのものが変わってしまいます
これは制度の話ではなく、治療上の問題です。
復職の判断に最も必要なのは、「職場に戻ることへの本音の不安」「どの業務なら再開できそうか」「誰との関係に負担を感じていたか」といった情報です。
上司が同席している場で、こうしたことを率直に話せる方は多くありません。
つまり、同席することによって、本来もっとも知りたかった情報が得られなくなるという逆転が起こりえます。
お電話での病状のお問い合わせにお答えできない理由
「電話で主治医と話したい」というご要望も、しばしばいただきます。
これについても、当院ではお受けしていません。理由は次のとおりです。
- 本人確認ができません。会社の代表電話からのお電話であっても、お話しされている方がご本人であるという確認をとる手段がありません
- 患者さんの同意を確認できません。ご本人が口頭で「話してよい」とおっしゃっていたとしても、その同意の範囲や事実を、電話の場で確認することはできません
- 記録が残りません。口頭のやり取りは、後から「どこまで伝えたか」「どう伝わったか」が不明確になり、誤解が生じやすくなります
病歴という要配慮個人情報を、本人確認のできない相手に、記録の残らない形で提供する。
これは、医療機関にとっても患者さんにとっても、非常にリスクの高い行為です。
当院では、原則としてご家族以外の方の診察への付き添いはご遠慮いただいており、また、ご本人が同意されている場合であっても、お電話での病状照会や復職に関するやり取りは行っておりません。
これは、会社の方を信用していないということでは決してありません。患者さんを守るために必要な線引きだとご理解いただければ幸いです。
では、どうすればよいのでしょうか
原則は「文書でのやり取り」です
結論から申し上げると、復職の判断に必要な情報は、文書のやり取りで足りるはずです。
文書には、次の利点があります。
- 患者さんご本人が、送られる内容を事前に確認できます。話してほしくない内容が含まれることがありません
- 記録として残るため、誤解や解釈のずれが生じにくくなります
- 質問と回答の範囲を、復職の判断に必要な事項に限定できます
- 医師の側も、限られた診察時間の中ではなく、落ち着いて検討したうえで回答できます
厚生労働省の手引きにも、様式が用意されています
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、この文書のやり取りのための様式例が添付されています。
- 様式例1:職場復帰支援に関する情報提供依頼書
- 様式例2:職場復帰支援に関する面談記録票
- 様式例3:職場復帰に関する意見書
- 様式例4:職場復帰及び就業上の配慮に関する情報提供書
同じ手引きには、主治医から得るべき情報の範囲について、次のように書かれています。
「ここで必要な情報とは、職場復帰支援に関して職場で配慮すべき内容を中心とし、それに関係する者の理解を得るために必要とされる病態や機能に関する最小限の情報である。具体的な疾患名は、必ずしもこれに含まれない。」
つまり、会社が知る必要があるのは「何に配慮すればこの方が働き続けられるか」であって、詳しい症状や診断名そのものではない、という整理です。
また、情報提供にあたっては労働者本人の同意を得ることが前提とされています。
むしろ、会社から情報をいただけると助かります
ここは、多くの方に知っていただきたい点です。
同じ手引きには、次のような記載があります。
「主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。」
主治医は、患者さんの職場の業務内容や勤務制度を直接見ているわけではありません。
そのため手引きでは、あらかじめ職場で必要とされる業務遂行能力の内容や社内の勤務制度に関する情報を主治医に提供したうえで、意見書の作成を依頼することが望ましいとされています。
診察に同席して情報を「聞き出す」よりも、業務内容や配慮可能な範囲を先に文書で送っていただくほうが、精度の高い意見が返ってくる可能性が高いです。
「時短勤務は可能か」「出張や残業は当面免除できるか」「復帰先の部署は変わるのか」といった情報があるかないかで、書ける内容はまったく変わってきます。
それでも直接話したいという場合は
厚生労働省の手引きにも、「状況によっては、主治医及び本人を含めた3者面談を行うことも考えられる」という記載があります。
文面だけでは伝わりにくい状況や、復帰後の働き方について細かく詰める必要がある場合には、面談が有効なこともあります。
当院でも、必要と判断される場合には対応することがあります。ただし、次の条件があります。
事前に患者さんご本人と打ち合わせます
どこまでの内容を話してよいのか、逆に触れてほしくないことは何か。
これをご本人と事前に確認しておかなければ、面談の場でご本人が望まない情報が出てしまう可能性があります。
この打ち合わせは、面談そのものと同じくらい重要な工程です。
通常の診察枠とは別の時間を設けます
会社の方を交えた面談には、まとまった時間が必要です。
通常の診察枠の中で行うことは難しく、別途お時間を確保することになります。
保険診療の枠外(自費)となります
職場復帰に関して主治医が作成する意見書は、厚生労働省の通知において「療養の給付と直接関係ないサービス等」に位置づけられ、患者さんの自己負担(文書料)として整理されています。
会社の方との面談についても、同様に保険診療の枠外としてお取り扱いするのが一般的です。
なお、手引き自体にも「直接主治医との連絡や面会を行う場合、その費用負担についても、事前に主治医との間で取り決めておく必要がある」と明記されています。
会社のご担当者の方へ
復職支援に取り組まれる立場の方に、お伝えしたいことをまとめます。
- 文書での照会を第一選択にしてください。手引きの様式例を使えば、必要な事項を過不足なく確認できます
- 可能な範囲で職場の情報を送っていただけると助かります。業務内容、勤務制度、配慮可能な範囲。これがあるほど、主治医の回答はより具体的になります
- 費用と所要時間を事前にご確認ください。文書料や面談の費用は医療機関によって異なります
- 最終的な復職の判断は、事業者が行うものです。主治医の意見はその材料のひとつであり、就業可否そのものを主治医が決めるわけではありません
なお、令和8年6月の診療報酬改定により、主治医が勤務先の産業医等に文書で情報提供を行う際の評価(療養・就労両立支援指導料)について、対象となる疾患の限定が撤廃されました。
主治医と職場の連携を後押しする方向に制度が動いていること思います。
休職中の患者さんへ
もし会社から「診察に同席したい」「主治医と電話で話したい」と言われた場合、その場で承諾する必要はありません。
「主治医に確認します」とお伝えいただければ十分です。
そのうえで、次回の診察の際にご相談ください。
どのような形で会社に情報を伝えるのがよいか、何を伝えて何を伝えないのか、一緒に整理していきます。
まとめ
- 診察への同席や電話での病状照会は、復職判断に不要な情報まで伝わってしまうため、原則としてお受けしていません
- 電話は本人確認ができず、記録も残らないため、特にリスクが高い方法です
- 復職判断に必要な情報は、文書のやり取りで足ります。厚生労働省の手引きに様式例があります
- 会社から業務内容や勤務制度の情報を先にいただけると、より精度の高い意見書を作成できます
- 対面での面談が必要な場合は、事前の打ち合わせを行ったうえで、通常の診察枠とは別に、自費でお時間を確保します
当院では、休職に必要な診断書の作成から、復職に向けた文書のやり取り、産業医・人事担当者との連携までご相談に応じています。
院長は産業医としても活動しており、会社側の事情と医療側の事情の双方を踏まえたうえで対応しています。
復職に向けた進め方でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
参考文献・情報源
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
- 厚生労働省「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」(保医発第0901002号)
- 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」
- 厚生労働省「地域産業保健センターのご案内」
記事監修者について
こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医
