メニュー

市販の睡眠薬と処方される睡眠薬の違いは?

[2026.09.04]

市販の睡眠薬と、処方される睡眠薬は同じものですか?

「眠れないので、まずドラッグストアの睡眠薬を試してみました」というお話は、外来でよく伺います。

結論からお伝えすると、市販されているものと医療機関で処方されるものは、成分も、体に働きかける仕組みも、異なる種類のお薬です。
市販薬が「弱い睡眠薬」というわけではなく、そもそも種類が違います。

そして、より本質的な違いは「眠れない原因を調べたうえで使うかどうか」にあります。
このコラムでは、両者の違いと、市販薬を使ってよい場面・受診をおすすめする場面を整理してお伝えします。

市販されている「睡眠改善薬」とはどんなお薬ですか?

主成分は、もともとアレルギーのお薬です

日本のドラッグストアで購入できる睡眠関連の医薬品は、そのほとんどがジフェンヒドラミン塩酸塩という成分を主成分としています。

この成分は本来、花粉症やじんましんなどに使われる抗ヒスタミン薬です。
抗ヒスタミン薬を飲むと眠くなることはよく知られていますが、市販の睡眠改善薬は、この「副作用としての眠気」を利用したお薬です。

商品のパッケージに「睡眠薬」ではなく「睡眠改善薬」と書かれているのは、このためです。
不眠症を治療するお薬ではない、という位置づけが名称に表れています。

効能・効果は「一時的な不眠」に限られています

市販の睡眠改善薬の添付文書には、効能・効果として「一時的な不眠の次の症状の緩和:寝つきが悪い、眠りが浅い」と記載されています。

そして「してはいけないこと」として、次の方が明記されています。

  • 日常的に不眠の方
  • 不眠症の診断を受けた方
  • 15歳未満の小児
  • 妊婦または妊娠していると思われる方

さらに「2~3回服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること」「連用しないこと」とも書かれています。

つまり、市販の睡眠改善薬は「たまたま今夜眠れない」ときに数日だけ使うものであり、続いている不眠に使うことは、添付文書上そもそも想定されていません。
「1年以上飲み続けています」というお話をまれに伺うことがありますが、これは本来の使い方から外れています。

長く続けると「耐性」ができる可能性があります

抗ヒスタミン薬の眠気には、比較的短期間で体が慣れてしまう(耐性ができる)ことが知られています。
海外の研究では、4日ほど続けて服用すると、眠気を起こす効果が飲まない場合と変わらない水準まで低下したと報告されています。

「最初は効いたのに、だんだん効かなくなってきた」というのは、市販の睡眠改善薬では珍しくない経過です。
そこで量を増やしてしまうと、後述する副作用のリスクだけが高まることになります。

ご高齢の方が使用する際は注意が必要です

ジフェンヒドラミンには抗コリン作用という働きがあり、次のような副作用が出ることがあります。

  • 口の渇き
  • 便秘
  • 排尿しにくくなる、尿が出なくなる
  • 翌日まで眠気やだるさが続く
  • ふらつき、転倒
  • 物忘れ、意識がもうろうとする(せん妄)

とくにご高齢の方では、これらが起こりやすくなります。
米国老年医学会が定める高齢者の薬物療法の指針(Beers基準)では、ジフェンヒドラミンを含む第一世代の抗ヒスタミン薬は「可能な限り避けるべき薬」に分類されています。
日本老年医学会のガイドラインでも、同様に「特に慎重な投与を要する薬物」として挙げられています。

また、緑内障や前立腺肥大による排尿障害のある方は、症状を悪化させるおそれがあるため、服用前に相談することとされています。

なお、抗コリン作用を持つ薬を長年にわたり多量に使い続けることと、認知症の発症リスクとの関連を指摘した大規模な研究があります。
ただし、抗ヒスタミン薬だけを取り出した解析では明確な関連が示されなかった報告もあり、この点についての結論はまだ定まっていません。
過度に不安になる必要はありませんが、「漫然と長く使わない」ことが望ましいのは確かです。

クリニックで処方される睡眠薬とは何が違いますか?

働きかける仕組みが違います

市販の睡眠改善薬がヒスタミンの働きを抑えるのに対し、医療機関で処方される睡眠薬は、睡眠と覚醒に直接関わる別の仕組みに働きかけます。

  • オレキシン受容体拮抗薬:覚醒を維持する物質(オレキシン)の働きを抑え、自然な眠りへの移行を促します
  • メラトニン受容体作動薬:体内時計に働きかけ、眠るタイミングを整えます
  • 非ベンゾジアゼピン系・ベンゾジアゼピン系:脳の興奮を抑えるGABAという物質の受容体に作用します

作用点がまったく異なるため、「市販薬が効かなかったから処方薬も効かないだろう」ということにはなりません。
反対に、「市販薬で眠れたから大丈夫」ということにもなりません。

不眠のタイプに合わせて選べます

ひとくちに不眠といっても、寝つけないのか、途中で目が覚めるのか、朝早く目覚めてしまうのかによって、適したお薬は異なります。
また、年齢、持病、飲んでいる他のお薬、翌日に運転や早朝の業務があるかどうかによっても選択は変わります。

市販薬は成分が事実上ひとつしかないため、こうした調整ができません。

何より、「原因を調べたうえで使う」点が違います

これが最も大きな違いです。

眠れない、熟睡できないという背景には、次のような治療可能な病気が隠れていることがあります。

  • 睡眠時無呼吸症候群:本人が気づかないうちに睡眠が分断されています。当院では検査・治療に対応しています
  • うつ病・不安症:不眠が最初のサインとして現れることがあります
  • レストレスレッグス症候群:脚の不快感で寝つけない病気で、鉄欠乏が関与することがあります
  • 甲状腺機能の異常:血液検査で確認できます
  • 他のお薬の影響:ステロイドや一部の降圧薬などが不眠を引き起こすことがあります

市販薬は、これらを調べないまま症状だけを抑えることになります。
とくに睡眠時無呼吸症候群がある方の場合、眠気を強める薬をご自身の判断で使うことは望ましくありません。

「眠れないから睡眠薬」ではなく、「なぜ眠れないのかを確かめてから決める」ことが重要です。

やめ方まで含めて相談できます

日本睡眠学会のガイドラインでは、睡眠薬の治療目標は「不眠症状と生活の質の両方が改善している状態」とされ、その後に計画的に減量していくことが示されています。
当院でも、お薬を始める段階から「どのように減らしていくか」を含めてご相談が可能です。

市販薬の場合、この「やめ方」を一緒に考えてくれる人がいないまま、なんとなく続いてしまうことが少なくありません。

費用はどちらが安いのですか?

市販薬は全額が自己負担です。
一方、医療機関で処方される睡眠薬は健康保険が適用されます(多くの方は3割負担)。

受診すると診察料がかかりますが、そのなかには原因を調べるための問診や検査が含まれます。
市販薬を毎月買い続けている方の場合、費用の面でも受診したほうが負担が軽くなることがあります。

市販薬をめぐって、最近変わったことがあります

近年、市販薬を大量に服用してしまう「オーバードーズ」が社会的な問題となっています。

これを受けて、令和8年(2026年)5月1日から、市販薬の販売に関する制度が改正されました。
乱用のおそれがある成分は「指定濫用防止医薬品」として指定され、睡眠改善薬の主成分であるジフェンヒドラミンも、その対象に加えられています(外用薬を除く)。

対象となる医薬品については、販売時に年齢や他のお薬の使用状況の確認が行われ、18歳未満の方への大容量・複数個の販売は認められません。
また、購入者が直接手に取れない場所への陳列などの措置も求められます。

「処方箋がいらないから安全な薬」というわけではない、ということが、制度の面からも示されたかたちです。

サプリメントやメラトニンはどうですか?

「睡眠の質」をうたう機能性表示食品

GABA、L-テアニン、グリシンなどを配合し、「睡眠の質を高める」と表示された食品が数多く販売されています。

ここで知っておいていただきたいのは、機能性表示食品は届出制であり、国が有効性や安全性を審査したものではないという点です。
消費者庁も「国が審査を行いませんので、事業者は自らの責任において科学的根拠を基に適正な表示を行う必要がある」と明記しています。

実際、届出された根拠資料の質を検証した研究では、その多くが信頼性の高い水準には達していないと指摘されています。
「効く方もいるかもしれないが、「処方薬のように効果が確かなもの」として期待はしないほうがよい」というのが、現時点での妥当な理解です。

メラトニンのサプリメント

海外では睡眠用のサプリメントとして広く販売されていますが、日本ではメラトニンは医薬品の成分として扱われており、食品として国内で販売することはできません。

個人輸入で入手される方もいらっしゃいますが、品質の保証がなく、含有量が表示と異なる製品も報告されています。
副作用が起きても、後述する救済制度の対象にはなりません。

なお、日本にもメラトニンを成分とする医療用医薬品はありますが、対象は小児の神経発達症に伴う入眠困難に限られており、成人の一般的な不眠に処方できるものではありません。

市販薬を使ってもよいのは、どんなときですか?

市販の睡眠改善薬が役に立つ場面が、まったくないわけではありません。

例えば次のような場合には、選択肢のひとつになります。

  • 旅行や出張、環境の変化で、一時的に眠れない夜が続いているとき
  • 明日の予定が気になって眠れない、といった短期間の不眠
  • 持病がなく、他のお薬を飲んでいない成人の方

反対に、次のような場合には使用を避け、ご相談ください。

  • 不眠が1か月以上続いている
  • すでに不眠症と診断されている
  • 65歳以上の方
  • 緑内障、前立腺肥大、排尿障害がある方
  • 妊娠中・授乳中の方
  • 他の医療機関から処方を受けている方
  • いびきや無呼吸を指摘されたことがある方

市販薬でも副作用の救済制度は使えますか?

医薬品による重い健康被害が生じた場合の「医薬品副作用被害救済制度」は、市販薬も対象に含まれます。

ただし給付を受けるには「適正に使用していたこと」が要件であり、添付文書に書かれた効能・効果、用法・用量、使用上の注意に従って使用されていたことが前提となります。
用量を超えて飲んだ場合や、「してはいけないこと」に該当する方が服用した場合には、対象とならない可能性があります。

この点でも、添付文書の記載を守って使うことが重要です。

受診の目安を教えてください

  • 市販の睡眠改善薬を1週間以上使い続けている
  • 市販薬を飲んでも眠れない、効かなくなってきた
  • 寝つけない、途中で目が覚める状態が週に3回以上、1か月以上続いている
  • 眠っているはずなのに、日中の眠気や疲労感が強い
  • いびきや無呼吸を指摘されたことがある
  • 気分の落ち込みや不安を伴っている

「睡眠薬をもらいに行く」という気持ちでなくても構いません。
当院では、問診に加えて、必要に応じて睡眠時無呼吸症候群等の検査も行い、眠れない原因を確かめたうえで、生活面の調整から治療の選択肢までを一緒に検討します。

お薬を使わない方針をご希望の方にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

参考文献・情報源

  • 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「一般用医薬品 添付文書情報」
  • 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品副作用被害救済制度」
  • 日本睡眠学会『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン』
  • 日本OTC医薬品協会「睡眠改善薬に関するQ&A」
  • American Geriatrics Society『2023 Updated AGS Beers Criteria』
  • 日本老年医学会『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』
  • Richardson GS, et al. Tolerance to daytime sedative effects of H1 antihistamines. J Clin Psychopharmacol. 2002
  • Gray SL, et al. Cumulative use of strong anticholinergics and incident dementia. JAMA Intern Med. 2015
  • Coupland CAC, et al. Anticholinergic drug exposure and the risk of dementia. JAMA Intern Med. 2019
  • 消費者庁「機能性表示食品について」
  • 国立健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」
  • 厚生労働省「指定濫用防止医薬品に関する制度改正について」(令和8年5月1日施行)
  • 厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)」

 


記事監修者について

山﨑 龍一

こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医

医師の紹介

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME

AIチャットに質問