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適応障害

適応障害はどんな病気ですか?

適応障害は、ストレスとなる出来事や環境の変化にうまく適応できず、精神的・身体的な症状が現れて、日常生活や仕事に支障が生じる状態です。
例えば、仕事の内容や量の変化、職場の人間関係、異動や転職、引っ越し、家族の問題、病気の告知などが引き金となります。

「ストレスが原因なら誰にでもあること」と思われがちですが、適応障害は、ストレスの大きさに対して不釣り合いなほど強い苦痛が生じている、あるいは生活機能が明らかに損なわれている状態を指します。
日本では働く世代の方に多くみられ、産業現場やプライマリケアの場で頻度が高い疾患として知られています。

適応障害は、原因となるストレスから離れることで比較的短期間に回復することが多い一方、対応が遅れると慢性化したり、うつ病など他の疾患に進展したりすることがあります。
早期に気づき、適切に対応することが何より重要です。

なお、DSM-5-TRの日本語版では、「適応障害」に「適応反応症」という訳語が用いられています。
どちらも同じ状態を指す名称です。

適応障害でよくみられる症状は?

症状の現れ方には個人差が大きく、こころ・からだ・行動のいずれか、あるいは複数にまたがって現れます。

こころの症状

  • 気持ちの落ち込み、涙もろさ
  • 不安感、緊張感、そわそわ落ち着かない感じ
  • イライラ、怒りっぽさ
  • 集中力の低下、物事が決められない
  • 無力感、自己肯定感の低下
  • ストレスの原因について繰り返し考えてしまう

からだの症状

  • 頭痛、肩こり、腹痛、下痢や便秘
  • 動悸、息苦しさ、めまい
  • 寝つけない、途中で目が覚める
  • 食欲の低下、体重の減少
  • 強い疲労感、倦怠感

行動の変化

  • 職場や学校への遅刻・欠勤・欠席が増える
  • 人との関わりを避ける、引きこもりがちになる
  • 飲酒量が増える
  • 仕事のミスが増える、業務が滞る
  • 危険な運転、衝動的な行動(特に若年者でみられることがあります)

典型的には、職場や学校といった特定の場面で症状が強くなり、そこから離れると和らぐという特徴があります。
「日曜日の夕方から憂うつになり、月曜の朝が最もつらい」といった訴えは、その代表例です。

適応障害はどのように診断しますか?

適応障害の診断では、「どのようなストレスが、いつ始まり、症状がいつ現れ、ストレスから離れたときにどう変化したか」という時間的な経過が決め手になります。
症状そのものだけを切り取って判断することはできません。

DSM-5-TRにおける考え方

DSM-5-TR(米国精神医学会の診断基準)では、おおむね次のような要件が示されています。

  • はっきりと特定できるストレス因の始まりから、3ヶ月以内に症状が現れること
  • ストレスの強さに不釣り合いなほど強い苦痛があるか、社会的・職業的な機能に著しい支障が生じていること
  • 他の精神疾患の診断基準を満たさず、もともとある精神疾患が単に悪化しただけでもないこと
  • 通常の死別反応では説明できないこと
  • ストレス因(またはその結果)が終わったあと、症状が6ヶ月以上続かないこと

また、症状の中心が何であるかによって、「抑うつ気分を伴うもの」「不安を伴うもの」「不安と抑うつ気分の混合を伴うもの」「素行の障害を伴うもの」「情動と素行の障害の混合を伴うもの」「特定不能」に分けられます。

ICD-11における考え方

WHOの国際疾病分類ICD-11では、適応障害の中核となる症状として、次の2つが挙げられています。

  • ストレス因へのとらわれ(そのことについて過剰に心配したり、繰り返し考え込んでしまう)
  • 適応の失敗(仕事、学業、家庭生活、対人関係などの重要な領域で機能が保てなくなる)

ICD-11では、症状の出現はストレス因からおおむね1ヶ月以内とされ、機能の障害があることが必須とされている点が、DSM-5-TRとの主な違いです。

診察で確認すること

  • ストレス因の内容と、始まった時期
  • 症状の始まった時期と、ストレス因との時間的な前後関係
  • 休日や休職中に症状がどう変化するか
  • 過去の同様のエピソード、これまでの適応の仕方
  • 身体疾患や服薬の影響、飲酒量
  • もともとの気質や特性(発達特性を含む)と、環境とのミスマッチの有無

なお、精神科では経過のなかで診断が変わることも珍しくありません。
これまでにない症状が出てきた場合は、すみやかに主治医にご相談ください。

適応障害とうつ病はどう違うのですか?

適応障害とうつ病は症状が重なるため、実際の診療でも判断に迷う場面が多くあります。
一般に、次のような点が手がかりになるとされています。

診断の立て方が異なります

適応障害は、ストレス因と症状の出現・消失との時間的な関連(縦断的な経過)によって診断されます。
一方うつ病は、ある一時点でどのような症状がそろっているか(横断的な症状評価)によって診断されます。

ストレスから離れたときの反応が異なります

仕事が休みの土日には症状が改善し、趣味なども楽しめるような場合は、適応障害のほうがより適切とされています。
反対に、休職して環境から離れても症状がほとんど改善しない場合には、うつ病の可能性を考える必要があります。

「適応障害だから軽い」とは限りません

適応障害はうつ病に比べて軽い病気と受け取られることがありますが、これは正しい理解ではありません。

精神科医療機関で適応障害と診断された方は、そうでない方と比べて自殺のリスクが有意に高いことが報告されています。
また、自傷や自殺企図で救急を受診した患者さんのなかで、適応障害が最も多い診断であったとする研究があります。

「気持ちの問題」「環境が変われば治る」と考えて我慢を続けるのではなく、つらさが続いている段階で早めにご相談いただくことが大切です。

適応障害の治療にはどんな選択肢がありますか?

適応障害の治療の中心は、原因となっているストレスへの対応です。
(なお、適応障害に対する治療法の研究は数が限られており、国際的な系統的レビューでも「エビデンスの質は全体として低い」と評価されている点は、あらかじめご理解いただければと思います)
実臨床では次のような方法を組み合わせていきます。

環境調整

最も重要なのは、ストレスの原因から距離をとり、十分に休むことです。
業務量や業務内容の調整、配置転換、勤務時間の変更などで改善が見込める場合もあれば、一定期間の休職が必要になる場合もあります。
休職が必要と判断される場合には、診断書を作成します。

ただし、環境調整は「本人が何にどう困っているのか」を理解したうえで行わなければ効果が出にくく、形だけの配置転換ではかえって状況が悪化することもあります。
どのような負荷が問題になっているのかを、診察のなかで一緒に整理していきます。

精神療法

お話を伺いながら現在の状況を整理し、ストレスへの受け止め方や対処の仕方を一緒に見直していきます。
認知行動療法(CBT)の考え方を取り入れることで、自分の認知の偏りに気づき、対処の幅を広げられる場合があります。
また、「同じ状況をこれからどう乗り切るか」という問題解決の視点も重要になります。

薬物療法

適応障害そのものを治す薬はなく、薬物療法は補助的な位置づけです。
不眠が強い場合の睡眠薬、不安や動悸が強い場合の抗不安薬などを、必要な期間に限って用います。
ただし、経過のなかでうつ病の水準にまで症状が進んだ場合には、抗うつ薬による治療が必要になることがあります。

生活リズムの立て直し

休養期間中でも、起床時刻を大きく崩さない、日中に軽い活動を取り入れる、飲酒に頼らないといった点を意識することで、回復が早まり、復職もスムーズになります。

適応障害の経過は?

診断上は、ストレス因が終結すれば症状は6ヶ月以内に消退することが原則とされており、実際に2~3ヶ月程度で回復する方も多くいらっしゃいます。

一方で、必ずしも短期間で終わるとは限らない点にも注意が必要です。
ストレス因が長く続く環境では慢性化することがあり、また、はじめ適応障害と診断された方が、その後うつ病や不安症などに進展することもあると報告されています。

とくに、休職して症状が改善しても、同じ環境にそのまま戻れば再び症状が出現する可能性があります。
「休んで良くなった」で終わらせず、復職の前に、何が負荷になっていたのか、どのような配慮があれば働き続けられるのかを整理しておくことが、再発予防の鍵になります。

職場復帰はどのように進めますか?

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職を次の5つのステップで進めることが示されています。

  • 第1ステップ:病気休業開始および休業中のケア(診断書の提出、傷病手当金などの情報提供)
  • 第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断(復職可能の診断書)
  • 第3ステップ:職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
  • 第4ステップ:最終的な職場復帰の決定(事業者による正式決定)
  • 第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ

適応障害の場合、復職先の環境が発症要因そのものであることが多いため、第3ステップの「職場復帰支援プラン」の作り込みがとりわけ重要です。
業務内容、業務量、勤務時間、上司や同僚との関係、就業上の配慮事項について、復職前に関係者で具体的に打ち合わせておくことが、復職成功の確率を高めるとされています。

当院では、復職に向けた診断書の作成や、産業医・人事担当者との連携についてもご相談に応じています。

利用できるサポート制度にはどんなものがありますか?

休職制度

企業によって体制は異なりますが、ほとんどの企業で一定期間の休職制度が設けられています。
休職開始時には医師の診断書を求められるのが一般的です。

傷病手当金

健康保険に加入している方が、病気やケガで仕事を休み給与が支払われない場合にお金が支給される制度です。
支給額は、支給開始日以前の直近12ヶ月間の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2にあたる金額が日額として支給されます。
支給期間は、支給開始日から通算して1年6ヶ月です。
病名を問わず「療養のため働けない状態であるか」によって判断される制度で、適応障害も対象となりえます。

リワークプログラム

医療機関や地域障害者職業センターなどで実施されている、復職に向けたプログラムです。
生活リズムの立て直し、認知行動療法、模擬的な作業などを組み合わせて行われ、同じ立場の方との交流が得られる点も特徴です。

受診の目安を教えてください

  • 職場や学校のことを考えると、動悸や吐き気、涙が出てくる
  • 朝どうしても起きられない、出勤・登校ができない日がある
  • 眠れない、食べられない状態が続いている
  • ストレスの原因について、繰り返し考え込んでしまう
  • 飲酒量が増えている
  • 「消えてしまいたい」という気持ちが出てきている

これらが当てはまる場合は、我慢を重ねる前にご相談ください。
当院では、症状の評価に加えて、職場環境の整理についてのアドバイス、診断書の作成、復職判断まで一貫して対応しています。
「これくらいで受診してよいのだろうか」と迷われる段階でのご相談も歓迎しています。

参考文献・情報源

  • American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(日本語版:医学書院)
  • World Health Organization『ICD-11 Mental, Behavioural and Neurodevelopmental Disorders』(6B43 適応障害)
  • 精神神経学雑誌 第120巻第6号「適応障害」(総説)
  • O'Donnell ML, et al. A Systematic Review of Psychological and Pharmacological Treatments for Adjustment Disorder in Adults. J Trauma Stress. 2018
  • 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
  • 厚生労働省「こころの耳」
  • 全国健康保険協会「傷病手当金」

 


記事監修者について

山﨑 龍一

こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医

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