熟睡できない
「熟睡できない」とはどのような状態でしょうか
「睡眠時間はとっているはずなのに、朝起きたときに疲れが残っている」「眠りが浅く、ぐっすり眠った感じがしない」——このような状態を、一般に「熟眠障害」や「熟眠感の欠如」と呼びます。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、「睡眠休養感」(朝目覚めたときに休まったと感じられること)が、睡眠時間と並ぶ重要な指標として位置づけられています。
睡眠休養感が低い状態は、心血管疾患やうつ病との関連が指摘されており、単なる気分の問題として片づけられるものではありません。
ここで知っておいていただきたいことがあります。
不眠のタイプは「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つに分けて説明されることが多いのですが、国際的な診断基準であるDSM-5-TRやICSD-3では、熟眠障害は不眠症の中核症状から外されています。
これは「熟眠感がないことは重要でない」という意味ではなく、むしろ「不眠症だけに特有の症状ではなく、背景にさまざまな原因が隠れている」という理解に基づくものです。
つまり、「熟睡できない」という訴えは、原因を丁寧に探ることが何より重要な症状だといえます。
熟睡できない原因
精神的ストレスや不安
緊張や心配事が頭から離れず、眠りが浅くなってしまう状態です。
さらに、「今夜も眠れないのではないか」という眠りへの不安そのものが緊張を高め、かえって眠れなくなるという悪循環が生じることがあります。
うつ病や不安症
うつ病では、寝つきの悪さや中途覚醒、早朝覚醒に加えて、深い睡眠(徐波睡眠)が減少し、レム睡眠が現れるまでの時間が短くなるといった睡眠構造の変化が生じることが知られています。
「眠れない」という訴えが、うつ病の最初のサインとして現れることも少なくありません。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすることで、そのたびに脳が短時間覚醒し、睡眠が細かく分断されます。
ご本人には「眠っていた」という自覚があるため、いびきや無呼吸をご家族に指摘されるまで気づかれないことが多い病気です。
「時間は眠っているのに疲れがとれない」という訴えの背景として、まず確認すべき原因のひとつです。
当院では睡眠時無呼吸症候群の検査・治療に対応しています。
レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)・周期性四肢運動障害
夕方から夜にかけて脚に不快感が生じ、じっとしていられなくなる病気です。
動かすと楽になるため寝つきが悪くなり、また睡眠中に脚がぴくつく動きを繰り返すことで、無自覚のまま睡眠が分断されることがあります。
鉄欠乏が関与することがあり、血液検査で確認します。
加齢による睡眠構造の変化
加齢とともに、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が減少し、中途覚醒が増えることが知られています。
これはある程度自然な変化ですが、「若い頃と同じように眠ろう」として長く床の中にいると、かえって睡眠が浅くなることがあります。
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、高齢の方については床の中で過ごす時間が8時間以上にならないことを目安とするよう示されています。
カフェイン・アルコール・喫煙の影響
カフェインの血中濃度が半分になるまでの時間は成人で平均5時間程度とされ、個人差も大きいため、夕方以降の摂取が夜間の睡眠に影響することがあります。
アルコールは寝つきを良くする一方で、睡眠の後半で覚醒を増やし、熟睡感を損ないます。さらに、上気道の筋肉をゆるめるため、いびきや無呼吸を悪化させます。
ニコチンにも覚醒作用があり、就寝前の喫煙は入眠を妨げます。
体内時計のずれ(概日リズム睡眠・覚醒障害)
就寝・起床の時刻が大きく後ろにずれてしまうタイプなどがあり、「眠る力」ではなく「眠るタイミング」の問題として生じます。
交代勤務や時差、休日の朝寝坊が引き金になることもあります。
睡眠状態の誤認
実際には検査上ほぼ正常に眠れているにもかかわらず、ご本人は「ほとんど眠れていない」と強く感じている状態です。
決して気のせいや思い込みという意味ではなく、こうした病態があること自体が医学的に知られています。
睡眠日誌や検査によって、実際の睡眠と体感とのずれを一緒に確認していくことが、改善の出発点になります。
身体疾患やお薬の影響
甲状腺機能の異常、痛みを伴う疾患、頻尿を来す疾患などが背景にあることがあります。
また、副腎皮質ステロイド薬、気管支拡張薬、一部の降圧薬(血圧のお薬)などが睡眠に影響することもあるため、他院で処方されているお薬も受診の際にお知らせください。
熟睡できない状態が続くと、どうなりますか
不眠症(慢性不眠障害)
DSM-5-TRでは、眠る機会が十分にあるにもかかわらず、入眠困難・睡眠維持困難・早朝覚醒のいずれかが週3回以上、3ヶ月以上続き、日中の生活に支障が出ている状態を不眠障害としています。
3ヶ月未満の場合は短期の不眠として扱われ、多くは誘因が明確です。
慢性化する前の段階で対処することが重要です。
うつ病の発症リスクの上昇
34件の前向き研究(対象約17万人)を統合したメタ解析では、不眠のある方はない方と比べて、その後うつ病を発症するリスクが約2.3倍であったと報告されています。
不眠は「うつ病の症状」であると同時に、「うつ病の危険因子」でもあるということです。
日中の眠気・注意力の低下
集中力や判断力、作業効率が低下し、仕事上のミスや事故につながることがあります。
運転業務や高所作業に従事されている方では、安全に直結する問題となります。
生活習慣病との関連
睡眠の質の低下や睡眠不足は、高血圧、糖尿病、肥満との関連が指摘されています。
とくに睡眠時無呼吸症候群を伴う場合には、高血圧や心血管疾患のリスクが明確に高まります。
自律神経の不調
慢性的な睡眠の浅さは、動悸、めまい、倦怠感、消化器症状といった自律神経に関わる不調として現れることがあります。
熟睡できないときの対処や治療法
1.丁寧な問診と原因の分析
睡眠のリズムや環境、日中の疲労感などを詳しく伺い、医学的な背景も含めて評価します。
具体的には、次のような点を確認していきます。
- 床に就いた時刻、実際に眠れた時刻、目が覚めた回数と時刻、起床時刻
- いびきや無呼吸を指摘されたことがあるか
- 脚の不快感やぴくつきがないか
- 休日と平日で睡眠パターンがどう変わるか
- カフェイン、アルコール、喫煙、服用中のお薬
- 気分の落ち込みや不安などの精神症状の有無
必要に応じて、睡眠日誌の記録、血液検査(甲状腺機能・貧血・鉄など)、睡眠時無呼吸症候群の検査、検査機関での終夜睡眠ポリグラフ検査のご案内も可能です。
2.睡眠衛生・生活習慣の見直し
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、次の点が推奨されています。
- 成人は6~8時間程度を目安に、必要な睡眠時間を確保する
- 朝に光を浴びて体内時計を整える
- 日中に適度な運動習慣を持つ(就寝直前の激しい運動は避ける)
- 夕方以降のカフェイン、飲酒、喫煙を控える
- 寝室を暗く快適な温度に保ち、就寝前のデジタル機器の使用を控える
ただし、注意していただきたい点があります。
241件の試験を統合した解析では、こうした一般的な助言を伝えるだけでは、慢性化した不眠の治療としては効果が乏しいことが示されています。
生活習慣の見直しは土台として重要ですが、それだけで解決するとは限りません。次に述べる、眠り方そのものへの働きかけと組み合わせることが大切です。
3.眠り方・眠りへの向き合い方を見直す
国際的なガイドラインでは、慢性の不眠症に対しては、お薬よりもまず睡眠の習慣そのものと、眠りに対する考え方に働きかける方法が重視されています。
前述の解析でも、一般的な助言にとどまらず、床に就く時刻や床の中で過ごす時間そのものに具体的に手を入れることが、明確な効果につながると示されています。
当院では、専門的なプログラムとしてではなく通常の診察のなかで、次のような点を一緒に確認し、調整していきます。
- 眠くなってから床に就く(眠くないのに早く床に入らない)
- 眠れないまま床の中で過ごし続けない。眠れないときは一度床を離れる
- 床の中で過ごす時間を、必要以上に長くしない
- 寝床でスマートフォンを見たり考えごとをしたりせず、「寝床は眠る場所」という感覚を取り戻す
- 前日どれだけ眠れたかにかかわらず、起床時刻を一定に保つ
- 「必ず8時間眠らなければならない」「眠れないと明日がだめになる」といった思い込みを、実際の経過と照らし合わせて見直す
「眠ろうと努力するほど眠れなくなる」というのは、不眠でよくみられる現象です。
眠ることを目標にするのではなく、眠りやすい条件を整えていくという発想の転換が、回復につながることが少なくありません。
4.薬物療法
睡眠薬にはいくつかの種類があり、不眠のタイプや年齢、併存疾患、翌日の予定などをふまえて選択します。
オレキシン受容体拮抗薬
覚醒を維持する物質(オレキシン)の働きを抑えることで、自然な眠りに近い形で入眠を促します。
依存性が生じにくいとされ、近年広く用いられています。悪夢や翌朝の眠気が出る場合があります。
メラトニン受容体作動薬
体内時計に働きかけるお薬で、効果は穏やかですが、依存性が低く高齢の方にも使いやすいとされています。
非ベンゾジアゼピン系・ベンゾジアゼピン系睡眠薬
即効性がある一方、長期に使用すると耐性や依存が生じうること、転倒・骨折のリスクを高めること、高齢の方では認知機能への影響が懸念されることが知られています。
米国老年医学会のBeers基準では、高齢者に対してこれらの薬剤は「回避すべき」とされています。
現在使用されている方は、減量の方法について相談することも可能です。
翌日の眠気と自動車運転について
睡眠薬は種類と用量によって、翌朝の運転技能への影響が大きく異なります。
運転を要する方や早朝からの業務がある方については、この点をふまえて薬剤を選択する必要があります。
お仕事の内容についても、遠慮なくお聞かせください。
減薬・休薬(出口戦略)
日本睡眠学会の『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン』では、治療の目標は「不眠症状と生活の質の両方が改善し、不眠症が寛解している状態」とされています。
そのうえで、再燃を防ぐため十分な期間をおいてから計画的にゆっくりと減量していくこと、その際に生活面・行動面への働きかけを併用することが示されています。
当院では、開始の段階から「どのように減らしていくか」を含めてご相談できます。
熟睡できないときのよくある質問
Q1. 寝つけるけれど、夜中に何度も目が覚めてしまいます。これは病気でしょうか?
一時的なストレスであれば自然に回復することもあります。
ただし、週3回以上の頻度で3ヶ月以上続き、日中の生活にも影響しているようであれば、不眠症(慢性不眠障害)として評価と治療の対象になります。
中途覚醒が中心の場合、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群が背景にあることもあるため、一度ご相談いただくことをおすすめします。
Q2. 夢ばかり見て眠った気がしません。
夢は主にレム睡眠中に見ていますが、夢を「覚えている」かどうかは、夢の量よりもそのタイミングで目が覚めたかどうかに左右されます。
そのため、「夢をよく覚えている」ということは、睡眠が分断されているサインである可能性があります。
うつ病やストレス、睡眠時無呼吸症候群などが関係していることもあるため、原因の精査が大切です。
Q3. 睡眠時間は足りているはずなのに、疲れがとれません。
睡眠は「長さ」だけでなく「深さ」と「連続性」が重要です。
睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群では、ご本人が気づかないうちに睡眠が何十回も分断されていることがあります。
時間をとっても休まらないという場合は、こうした病気の検査を検討します。
Q4. 睡眠薬に頼りたくないのですが大丈夫ですか?
大丈夫です。
慢性の不眠症では、国際的にもお薬より先に、睡眠の習慣や眠りに対する考え方への働きかけが重視されています。
当院でも、生活リズムの調整、床に就く時刻や床の中で過ごす時間の見直し、眠りへの不安との付き合い方といった点を、診察のなかで一緒に整理していきます。
お薬を使う場合も、必要な種類を必要な期間だけ用い、はじめから減らしていく見通しを立てたうえでご提案します。
まずはご希望をうかがい、治療方針を一緒に考えましょう。
Q5. 眠れない日は、寝酒でしのいでもよいですか?
おすすめできません。
アルコールは寝つきを良くしますが、睡眠の後半で覚醒を増やして熟睡感を損ない、いびきや無呼吸も悪化させます。
また、慣れによって量が増えやすく、飲酒量の問題につながることがあります。
Q6. プライバシーが心配です…
当院では完全予約制・番号呼び出し制を採用しており、待合室でもお名前をお呼びしないなど、プライバシーに最大限配慮しておりますので、ご安心ください。
院長より
「熟睡できない」というのは、単なる疲れや気のせいではない場合もあります。
むしろ、こころや体のバランスが崩れているサインであることも少なくありません。
また、「熟睡感がない」という訴えの背景には、睡眠時無呼吸症候群のように検査で明らかにできる病気が隠れていることがあります。
日中の眠気や集中力の低下が、本人の努力の問題として片づけられてしまう場面を多く見てきました。
原因が分かれば、対処の方法も変わります。
こころの港クリニック 京橋・東京駅前では、駅からのアクセスも良く、通いやすい環境のもと、診察を行っています。
お薬に頼らない方法をご希望の方にも、納得いただける治療法をご提案できるよう心がけています。ぜひ、一度お気軽にご相談ください。
参考文献・情報源
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」
- American Psychiatric Association『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(日本語版:医学書院)
- American Academy of Sleep Medicine『International Classification of Sleep Disorders, 3rd edition, Text Revision(ICSD-3-TR)』
- 日本睡眠学会『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン』
- Qaseem A, et al. Management of Chronic Insomnia Disorder in Adults: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2016
- Li L, et al. Insomnia and the risk of depression: a meta-analysis of prospective cohort studies. BMC Psychiatry. 2016
- American Geriatrics Society『2023 Updated AGS Beers Criteria』
記事監修者について
こころの港クリニック京橋・東京駅前 院長
医学博士
日本専門医機構認定精神科専門医
日本精神神経学会精神科専門医制度指導医
精神保健指定医
